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独自のデバイスに委ねる:医療テクノロジーの活用実現は現実の設計課題

マイク・デッペ著
同軸・プリント回路事業部バイスプレジデント

患者のモニターやデジタルドラッグデリバリ分野のリモートデジタルヘルスケアは現実のものとなって久しいわけですが、医療分野以外ではそれほど注目を集めていませんでした。コロナの世界的拡大によって、激動する世界の臨床課題に焦点が当てられるようになって、リモートデジタルヘルスケアが重視されるようになりました。

患者のモニタリングやデジタルドラッグデリバリ分野のデジタル健康機器メーカーは、急速に医療機器を再定義し、より患者志向になっています。今回のパンデミックはそのことを思い出させる出来事です。軽量かつ柔軟で使いやすいものの、患者の安全性と順守のバランスを取ったデバイスを設計することは簡単なことではありません。

変曲点:テクノロジーが時代を定義する

デジタルヘルスケアとその関連機器は、既存のテクノロジーを収束させただけのものではなくなり、現在では、進化を続けるグローバル市場内で変化を促進する変曲点となっています。医療テクノロジーにおける次世代のイノベーションの本質を判断するのは難しい課題です。

効果的な医療機器設計には、患者それぞれのニーズ全体を包括的に見る必要があります。単に医療的な要件だけでなく、経済的・社会的・テクノロジー的ニーズも考慮しなければならず、そのようなニーズをシームレスかつ効果的に満たす、慎重な方法を考えなければなりません。

モチベーションは? 残念なことに、投薬計画を順守しないと、相当な(しかし避けられる)医療費の支出に繋がります。このため正確なモニタリングはカギとなります。アメリカ人の半数が、処方通りには医薬品を摂取しておらず、効果的な患者のモニタリング(およびデジタルデリバリ)のシナリオが必須の目標となっています。モレックスが先ごろ発表した「デジタルヘルスと製薬業界の将来」と題した調査によると、回答者の60%が、デジタルドラッグデリバリの主な業務上の利点は、投与計画の順守が高まることによる全体的な治療費の低減であるとしています。

設計上の課題

しかしながら、豊かなデジタルドラッグの未来に完全に適応するようになるには、いくつかの障害があります。データプライバシーのミス、ユーザビリティおよび接続の課題、さらに地域的障害や現地規制上の障害が挙げられます。

モレックスは、ユーザーインターフェイス、コントロールパネル、フレキシブルプリント回路アセンブリ、使い捨てEKG電極アプリケーションなどの開発を通して、数十年にわたって医療機器設計に積極的に携わってきましたが、2016年にフィリップス・メディサイズを買収したことで、ウェアランブルソリューションや効果的なデータ把握を可能にするその他のプラットフォームを通じて、ドラッグデリバリと患者のモニタリングにおける課題に対処する性能を加速度的に向上させました。

患者にとって快適な医療用ウェアラブルの設計では、小型で使いやすく、正確かつ信頼性が高く、電池式であることを考慮することが重要というのは周知のことです。そのためには、標準的な患者の使用パターン・行為・環境に基づいて、柔軟かつ伸張・拡大可能で、耐久性の高い基板を使用することが設計上のカギとなります。

従来は、コンポーネントは硬いプリント基板(PCB)に取り付けられていました。医療用ウェアラブル設計者の課題は、性能や有効性、信頼性を損なうことなく柔らかい基板に同様のコンポーネントを統合することです。このことに加えて、長期的に性能を支える耐久性を持ちながら、医療的に適合する材料やコンポーネントをデザインインするニーズもあります。こうしたハードルも無視できません。

さらに、「新しい」材料およびコンポーネントの調達もサプライチェーンやコンプライアンスの課題であり、コンポーネントと製造の冗長性を念頭に置いて設計しなければならないという、一般的な要求もあります。実際、コロナによって、通常の設計サイクルが短縮され、生産の冗長性がさらに重要性を増した新しいエコシステムの形成に至りました。 

現実世界の医療用ウェアラブル

医療用ウェアラブルの利点は数多くあります。外科的には、剥がして貼るタイプのパッドやセンサーを皮膚に装着して、患者をモニターしデータを収集することができます。不快感やワイヤーがあることによる危険はありません。その最たる例が、新生児の心拍数のモニタリングです。リモートワイヤレスシステムに最適であり、重いワイヤーを装着する不快感がなく、身体の表面積を狭めることもなく、新生児の敏感な皮膚を損なう可能性もありません。こうしたことのすべてが数値に影響します。ケースによって、同一基準の管理で特定のバイタルサインを、正確かつ簡単にワイヤレスでモニタリングできる

自宅療養の患者にとっては、予防的モニタリングの普及によって、簡単で効率よく低コストでモニタリングすることが可能になり、介護者と接続することで問題を早期に検出することも可能になります。通常、患者のモニタリングの一環として収集される健康データには、心拍数、体温、そして糖尿病患者の場合は血糖値が含まれる場合があり、データがワイヤレスで収集されベースステーションに送信されます。

興味深いのは、リモートで患者の医療データを収集する方法に対しては、文化的違いも考慮しなければならないことです。アジアの一部の国々には歴史的に、健康データを測定・モニタリングすることの実用性により注意が向いている国もあります。また、一部のヨーロッパの国々には、米国やカナダなどの他の国々より早く、新しいテクノロジーを受け入れてきた歴史があります。ただし、国や海外の規制が変わるにつれ、このような傾向も変化しているかもしれません。

結束したアプローチが最善

患者のリモートモニタリングとデジタルドラッグデリバリがますます普及しており、このため測定・通信テクノロジーの主な要素のすべてを綿密に設計する必要があります。その代表例が、患者のバイタルサインの測定です。バイタルサインの測定が、単にハードウェアと測定プロセスの医療的要素を洗練させ、法規制を順守すれば良かったのは過去のことです。現在では、効率的なプロセス制御、一貫性、トレーニング、リビジョン管理、リスク軽減を徹底するために、一貫性のある適格なソフトウェアと電子機器設計の調整が必要になっています。

回答者は懸念を示している

「デジタルヘルスおよび製薬業界の将来」アンケートでは、回答者は懸念を示しており、その96%が採用上の課題をあげています。中でも、アンケートの回答者の39%がデバイスと接続の費用をあげています。電子機器業界ではコスト要因はよく分かっており、そのトップがチップの設計と製造です。パンデミックによる物資不足に加え、地域的な貿易摩擦やサプライチェーンの物流上の課題も、非常に難しいコスト要因となっています。

しかしアンケート結果にはある共通点もあります。それは、患者を最優先すると、投薬計画の順守と患者の状態が改善されると同時に、コストも低減するということです。

テクノロジーをニーズに対応させる

「コネクテッド」デジタルヘルスケアでは、患者と医療従事者との間のコミュニケーションが必要となります。一見すると、これはよくあるスマートフォンのアプリとクラウドへの接続の問題のように見えるかもしれませんが、インターネットアクセスなどの要因が地域や地域によって異なることを考慮すると、当然、接続をどのように実現するのかという疑問が生じます。事実、コストそのものおよびその分担方法は、リモート患者アクセスに関わるコミュニケーションプラットフォームの影響を受けます。また多くのケースでは、患者がスマートフォンを持っていない場合、またはインターネットへのアクセスが不十分である場合があり、デジタルヘルスケアの効率的な導入を阻む、非常に現実的な障害になっています。

技術的には、このことは、ドラッグデリバリデバイス自体に組み込む、あるいは業界で「医療分野のIoT」と呼んでいるもの(IoMT)にアクセスするための、低コストのゲートウェイソリューションの必要があることを意味します。

であるなら当然、プライバシーと医療データのセキュリティという厄介な問題もあります。医療の分野では高度な暗号化システムが必要となると考えられます。デジタルヘルスビジョンのデータベースは、どの薬を誰が、どのくらいの量で、どの日時に服用したかなどの詳細情報で構成されます。しかし、誰がこの極めて個人的なデータにアクセスできるべきなのでしょうか? 率直に言って、これは非常に高度なレベルの攻撃を招くため、医療機器設計者は常にこの点を念頭に置く必要があります。

実際に、アンケートの回答者の40%は、デジタルヘルスケアの導入で考えられる障壁としてデータセキュリティのリスクを挙げ、52%はデータのプライバシーとセキュリティには「外部の専門知識」が必要であると回答しています。

デジタルヘルスケアを主流に

アンケートの回答者の58%が、ネットワーキングや接続には、外部の専門知識のアドバイスや意見が必要であると考えています。この障害を克服する機会、克服することから得られるメリットがあります。同様に高度なセンシングテクノロジーの統合がコンスタントに進む中、42%の回答者は、急速に進歩するこの分野でも外部の専門知識が必要と回答しています。この42%の回答者は明確に、Medtechが一つの変曲点にあると見ています。Medtechとは、「ハイテク」性能によってヘルスケアの需要に対するデジタルエコシステムを実現し、インターネットワーキングのすべての可能性を統合するものです。

医療用ウェアラブルの設計目標はすでに達成されており、プリント回路の処理性能、高度な材料選別、フレキシブルハイブリッドエレクトロニクス(FHE)の統合といった重要な分野における業界の技術革新がこのことを可能にしています。テクノロジーの融合がデジタル医療の要件をどのように満たし、デジタルドラッグデリバリーとヘルスケア全体の新たなレベルの価値に対応していくのかのを見るのは興味深いことです。