メインコンテンツにスキップ

高性能な省スペースソリューションのためのコネクター設計イノベーション

モバイルデバイスとウェアラブルデバイスに追加されるセンサー、カメラ、無線機が増え続ける中、利用できるPCB面積も希少になってきています。エンジニアは、厳しい熱条件と機械的条件の下でパフォーマンス、歩留まり、信頼性を維持しながら、より小さなフットプリント内でより優れた機能性を実現するという課題に取り組んでいます。Molexは、大手OEM(相手先ブランド製品メーカー)と直接連携することで、PCBフットプリントを削減し、狭いスペース内で高電流要件をサポートしながら、大容量用途向けに簡単に拡張できる4列コネクターを設計しました。

コネクター設計における共同イノベーション


エンジニアは、モバイルデバイス、ウェアラブル、医療用センサー、スマートグラス、モノのインターネット(IoT)、車載カメラで、より狭いスペースにより多くの機能を格納するという大きなプレッシャーに直面しています。追加されたセンサー、無線周波数(RF)チェーン、大きなバッテリーが、PCB上のスペースを1平方ミリメートル単位で奪い合っています。OEMが競争力を維持するには、米粒サイズのフットプリント内で高信号密度、高電力、高耐久性のすべてを実現する超微細ピッチコネクターが必要です。しかし、フォームファクターだけでは不十分です。新しいコネクター設計は、既存の表面実装テクノロジー(SMT)、フレキシブルプリント回路(FPC)、その他の標準的な工場プロセスにドロップイン方式で投入できる必要もあります。

これらの要求を満たすには、小さな改良ではなく革新的なコネクターのイノベーションが必要でした。Molexのエンジニアは、共同ラピッドプロトタイピングを高度なツーリングと材料科学に組み合わせる、分野横断的なアプローチを採用しました。また、0.175mmピッチの4列コンタクトレイアウトを開発することで、パフォーマンスのトレードオフを発生させることなくフットプリントの劇的な削減を可能にしました。Molexは、OEMや受託製造業者との緊密な連携を通じて、低挿入力機構や金メッキを施した銅製コンタクトから、既存のラインにドロップインで組み込むことができて高速な組み立てプロセスに対応可能な工具の公差まで、細部にわたって調整を行いました。

その結果、コンパクトかつ堅牢で、生産準備が整ったソリューションが生まれました。このソリューションは、高密度インターコネクトに関する設計者の考え方を既に変革しつつあります。最大4.0Aをサポートし、接触抵抗を維持するとともに、厳しいサイクル、熱、振動テストに合格したQuad-Rowコネクターは、過酷な使用条件下でも信頼性の高い接続を提供します。日本、韓国、米国の適格性評価を通過し、脱落率が1%未満のこのコネクタープラットフォームは、現在大量生産に入っており、急速に生産規模を拡大しています。また、次世代のコンパクトで高性能な基板対基板用コネクターを開発するため、世界中のお客様との共同開発が今も続けられています。

Molex Quad-Rowコネクター。

モバイルデバイス内のスペースの再定義


モバイルデバイスにはより高密度な機能が搭載されるようになっており、利用可能なPCBスペースが不足する原因となっています。エンジニアは、パフォーマンスやバッテリー寿命を損なうことなく追加の機能をサポートするという大きなプレッシャーに直面しています。標準的な2列配列の0.35mmピッチコネクターは物理的限界に達しつつあり、イノベーションと限られた面積のバランスを取ることが困難になっています。ARウェアラブルや埋め込み型の医療用センサーなどの新しいデバイスカテゴリーが設計上の限界にさらなる拍車をかける中でこの問題も深刻化しており、超コンパクトな高密度インターコネクトおける飛躍的な進歩が求められています。

この問題に対処するため、Molexはマイクロ接続に関する深い専門知識と材料科学におけるリーダーとしての地位を活用して、コネクター設計を再考しました。Molexは、OEMや製造パートナーとの広範囲におよぶ分解分析とアイデアの観念化を通じて、同じフットプリント内でピッチを2分の1にし、コンタクト列を2倍にするという新しいアーキテクチャーを構想しました。 

このイノベーションによって生み出されたのがQuad-Row基板対基板用コネクターです。このコネクターは、PCB面積を30%以上縮小する0.175mmの4列レイアウトを特徴としています。既存の表面実装/FPCライン向けのドロップイン代替品として設計されており、新しい設備やプロセス変更を必要とすることなく、より迅速な導入を可能にします。モジュール式のアーキテクチャーがカスタマイズを簡素化するため、新しいユースケースにも適応できます。

Molexのマイクロコネクター担当ディレクター、Taekeon Park。
「私たちがQuad-Rowを開発したのは、消費者向けデバイスでは既に部品が隙間なく配置されており、お客様が超小型コネクターを必要としていたからです。そのため、お客様がより多くの機能を搭載できるようにする、米粒サイズのマイクロコネクターを構想しました。」
Taekeon Park
マイクロコネクター担当ディレクター
Molex

エンジニアリングエクセレンス


4列構成で0.175mmのピッチを達成するには、Molexのエンジニアがマイクロ製造の限界に挑戦する必要がありました。この規模では、接触信頼性、挿入力、および機械的アライメントの維持が飛躍的に困難になります。また、堅牢なパワーインテグリティとシグナルインテグリティを確保し、製品の寿命全体を通じて振動、熱ストレス、反復的な嵌合サイクルに耐える必要もありました。このビジョンをスケーラブルで再現可能なソリューションに変換することは、Molexの歴史の中でも最も複雑なDFM(Design For Manufacturing)課題の1つでした。

Molexのグループプロダクトマネージャー、Kota Kamezaki。
「Quad-Rowは、ピッチが既存設計の半分になっている超省スペース基板対基板用コネクターで、スマートウォッチ、スマートフォン、ウェアラブルのPCBフットプリントを30%以上削減できます。」
Kota Kamezaki
グループプロダクトマネージャー
Molex

エンジニアリングチームは、最初のショットが2列のコンタクトを形成し、2番目のショットが挿入エラーを発生させずに追加の列を正確に位置調整して固定する、斬新なデュアルオーバーモールドプロセスでこの課題に対応しました。この革新を支えたのは、シミュレーション、素材、ツール、パイロットライン検証にまたがった徹底した部門横断作業でした。3つの国際拠点での取り組みを通じて、チームは試作品のイテレーションを迅速に行い、電気的条件、機械的条件、および環境的条件を対象とした適格性試験を実施しました。これと同時に、高密度IoT環境向けのピッチが0.15mm未満のアーキテクチャーと高耐久性素材に関する活発な研究も続けられています。

この統制の取れたアプローチにより、-40~+85℃の温度で3.0〜4.0Aを一貫的に提供し、標準的な表面実装ラインとFPCラインでの脱落率が1%未満の米粒サイズのコネクターが生み出されました。グローバルな知識移転プロセスとインラインアライメント機能により、複数の生産拠点で高い再現性が確保されました。その成果は、単なるコンポーネントではなく、豊富なエンジニアリング人材と徹底した問題解決から生まれたスケーラブルな製造上のブレークスルーです。

製造プロセスについて話し合うエンジニア。

共同で設計する:試作品からブレークスルーへ


コネクターピッチの縮小は、技術的なハードル以外にも、新しい設計とお客様の既存の組立ラインとの互換性という課題ももたらしました。ほんの小さなアライメントエラーでも、歩留まりの低下や設置の失敗につながる可能性があります。Molexのエンジニアは、OEM設計チーム、委託製造業者、PCBやフレックスのサプライヤーを含めたステークホルダーの複雑なネットワークと連携しながら、製造可能性や市場投入までの時間を損なうことなく高密度パフォーマンスの目標を達成するソリューションを提供する必要がありました。

これらの競合する要件の橋渡しをする上で、エンジニアはアジャイル手法による共同開発戦略を採用しました。ラピッドプロトタイピングサイクル、共有されたツール、実環境でのDFMレビューは、速やかなフィードバックと継続的な改善を可能にしました。また、製品、プロセス、品質、フィールドアプリケーションといった複数の領域にまたがり、世界規模で連携したエンジニアリングチームが、お客様の現場と一体となって開発に取り組みました。標準化された表面実装/FPCテストフィクスチャーはOEMがリアルタイムのパフォーマンスデータを生成することを可能にし、毎週のスクラム(進捗会議)はラボからラインにおよぶ問題に迅速に対応して、開発サイクル時間を半分に短縮しました。

Molexのセールス担当ディレクター、Arash Mikaeeili。
「私たちは、複数のアイデア、ラピッドプロトタイピング、そしてお客様のフィードバックを用いて、早い時期から頻繁に実験を行いました。そうすることで早く失敗して早く学び、毎年何百万ものデバイスをサポートする画期的な設計にたどり着くことができました。」
Arash Mikaeeili
セールス担当ディレクター
Molex

この実践的なコラボレーションは、高性能コネクター以上のものをもたらしました。複数サイトにまたがるプロトタイピングセル、整合されたテスト手順、共有ナレッジリポジトリによって長期的な歩留まりの安定性と現場での成功が確保される、スケーラブルな設計エコシステムが誕生したのです。そこから生まれたハードウェアイノベーションは、次々と新しい用途を見出し続けています。現在、Quad-Rowのバリエーションが拡張現実/仮想現実(AR/VR)ディスプレイとエッジAIモジュールでパイロット運用されています。 

グローバル生産におけるQuad-Row


Quad-Rowのように小さく精密なコネクターのスケーリングには、世界規模で同期した取り組みが必要でした。Molexは、主要OEMが期待する高品質しきい値を満たしながら、複雑なデュアルオーバーモールドプロセスを国際製造拠点全体に移転するという課題に直面しました。設計チームは、製品提供の遅れを回避し、適格性再評価のリスクを最小限に抑えるために、タイトな生産スケジュールに沿って作業を行う必要がありました。

これらすべてのアクションを調整するため、Molexは実証済みの知識移転モデルを実施しました。初期パイロットを静岡で行い、次に鹿児島に拡張して、韓国の施設で再現するというモデルです。各サイトは、生産効率を高めるために、標準的な0.35mmのマウント技術互換性とセルフアライメントコネクター機能を実装しました。すべてのラインでのリアルタイムのパフォーマンスデータは、継続的なプロセス改善をサポートしました。それと同時に、専任のランプアップチームが、プロセスエンジニア、品質リーダー、顧客対応サポート間の足並みを揃え、一貫性を維持しながら準備体制を迅速に整えました。

今日、Molexでは3つの完全に同期された生産センターを通じてシームレスなグローバル供給を実現しており、業界最高レベルのQuad-Row基板対基板用マイクロコネクター出荷量を達成しています。医療や次世代ウェアラブルなどの拡大する市場にサービスを提供するため、4番目のサイトも既に計画中です。 

Molexのリードエンジニア、Daishi Gondo。
「4つのコンタクト列を形成するための2段階のオーバーモールドという手法は新しい製造テクノロジーでしたが、プロセスチームとの密接なコラボレーションにより、これらの課題を私たちにとって最大のエンジニアリング上の成果へとつなげることに成功しました。」
Daishi Gondo
リードエンジニア
Molex

課題からコネクターへ


世界初の0.175mmピッチQuad-Rowコネクターの開発は、マイクロコネクターイノベーションにおける大きな飛躍となりました。増大するコンポーネント密度と縮小するPCBスペースに直面したMolexのエンジニアは、従来のコネクターアーキテクチャーを再考し、基板フットプリントを30%以上削減する画期的な設計を実現しました。今日、まさにそのソリューションがグローバル市場で大きな出荷実績を上げ、同種の製品の中で最も広く導入されているマイクロコネクターの1つとしての地位を確立しています。 

このような成果を得るには、お客様とのコラボレーションが極めて重要でした。Molexは、OEMや製造パートナーと緊密に連携し、実環境の組立ライン、パフォーマンス目標、ロードマップのニーズに合わせてコネクターを設計しました。頻繁な設計レビュー、反復的なプロトタイピング、サイト別テストを通じて、エンジニアリング上の概念をスケーラブルな商業的成功に変換することができたのです。

その結果として生まれたのが世界最小のコネクターです。このコネクターは、限られたフットプリント内で極めて高密度な接続を実現します。金メッキが施された銅合金コンタクトと、UL94 V-0定格のロープロファイルLCPハウジングで構築されたマイクロコネクターは、次世代の小型化用途におけるコンパクト性と信頼性の要求を満たしながら、堅牢な電気的パフォーマンスを発揮するように設計されています。

MolexのQuad-Rowヘッダーとリセプタクル。

この第1世代での成果がゴールであるように思えるかもしれませんが、実際にはこれが出発点になります。Molexは、継続的な改善とより緊密な共同開発の取り組みを通じて、コネクターテクノロジーの進歩に引き続き取り組んでいきます。現在、第2世代と第3世代のQuad-Rowバリエーションでパイロットテストが行われており、AR/VRシステム、医療用センサー、次のIoTイノベーションの波に向けて機能が強化されています。