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高速道路を走行するコネクテッドカーとNTNネットワークラインのオーバーレイ。

非地上系ネットワーク(NTN)向け接続ソリューション

非地上系ネットワーク(NTN)は、モビリティプラットフォーム間のデータ送信方法を再定義し、カバレッジギャップを解消し、V2X(Vehicle to everything)通信の新たなイノベーションを実現するでしょう。

著者:Dietmar Schnepp
製品テクノロジスト

読了時間:5分

電力グリッド、電話、インターネットなど、現在広範な普及に成功しているネットワーク技術は、いずれも既存インフラに多くのイノベーションを導入することで大きな技術革新を達成してきました。

今日、通信ネットワークは自動車分野においてますます重要な存在になっています。予測型安全システムから没入型車内体験まで、コネクテッドカー技術が車両機能の進歩を支えています。これらのテクノロジーは、ネットワーク境界線の広がりに伴いさらに成長していくでしょう。

これまでのところ、コネクテッドカーのビジョンは部分的にしか実現されていません。なぜなら、車両の接続は都会の高密度通信エリアを離れたとたんに失われる可能性があるからです。地上系ネットワーク(TN)に存在するギャップは、現代の車両システムに安全性リスクとサービスの中断をもたらし、ネットワークベースの機能が最大限に発揮されるのを妨げています。

非地上系ネットワーク(NTN)はそうしたギャップを埋める存在として期待されています。今後、衛星、高高度プラットフォーム、およびその他の宇宙ベースのインフラストラクチャーを利用したV2X(Vehicle to everything)通信が辺境地にも拡大するでしょう。この弾力性のあるカバレッジ層は、次世代車両システムの価値の完全な実現のために不可欠な存在です。

マルチモーダル統合は、モビリティの次の段階を実現するカギとなります。NTNは、道路の安全性向上、予測型交通フローの実現、ユーザーエクスペリエンスの向上、新しいビジネスモデルの強化など、さまざまな開発を推進する役割を果たすことが期待されています。

NTNテクノロジーをすべての車両に導入できる新しい時代は、すでに到来しています。この変化に対応できないOEMは取り残されるリスクが大きくなります。

システムデザイナーにとってNTNが意味するもの

衛星システムなどのNTNネットワークへのリンクを標準搭載したニューモデルの発売はまだ先かもしれませんが、それらのネットワーク向けハードウェアインフラが車両設計に統合され始める可能性は高いです。電気エンジニアやシステムエンジニアにとって、NTNテクノロジーに対応したアンテナ、インターフェース、統合の搭載は、間もなくすべての車両の設計における標準プロセスとなるでしょう。

これらのプラットフォームは、地上ネットワークと衛星ネットワーク間のシームレスな切替をサポートしながら既存の設計上の制約や新たな法規制基準に対応することが求められます。各通信ネットワークと車両に搭載されるさまざまなシステムやコンポーネント間の双方向データフローを維持するには、信頼性の高い高速通信インフラが必要とされます。例えば、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転機能などの安全機能は、継続的なセンサー統合と高精度なナビゲーションを支えるこうした双方向データ送信に依存しています。

エンジニアリング上の主な考慮事項は次のとおりです。

  • アンテナやトランシーバーの配置とパッケージング
  • 周波数割り当ておよび他のワイヤレスシステムとの共存
  • グローバル規制フレームワークとの適合性
  • 熱サイクル、振動、電磁干渉(EMI)に対するレジリエンス

長期的には、OEM各社はNTN接続の採用により、将来を見据えた車両アーキテクチャを実現し、ソフトウェア機能、デジタルサービス、接続性能がますます重視されるようになる自動車市場で自社モデルを差別化することができるでしょう。

衛星カバレッジが車両システムにおいて重要な理由

高高度データソースへのアクセスは、ADASなどの既存の車載機能を向上させるとともに、現在開発パイプライン上にある新たな自動車技術の開発を加速させます。フルコネクテッドカーにおけるグローバルなNTNカバレッジの完成は、未来の自動車イノベーションを飛躍的に前進させるでしょう。

最新モビリティにおけるこうしたイノベーションは、以下の5つのトレンドにおいて具現化されつつあります。

シームレスなカバレッジと連続性
NTN機能の搭載により、セルラーネットワークが切断されても、ナビゲーション、V2X、フリート管理などの重要な車両機能をオンライン状態に維持できます。衛星カバレッジは、国境を越えた移動や辺境地など、地上系ネットワークのカバレッジが不安定または利用できない状況において特に重要となります。

緊急時機能および安全機能のサポート
衝突検出、eCall、リモート診断の維持には、レジリエントな通信パスが必須です。NTN機能の搭載により、従来型ネットワークで障害が発生した場合に、人の安全を守るのに不可欠なデータ伝送のための代替チャンネルを確保できます。

OTA(Over-The-Air)およびリモート操作機能
ファームウェアの更新、機能のダウンロード、および遠隔操作機能は、信頼性の高い接続があることが前提条件です。NTN機能の搭載により、移動中やオフグリッド状態でも、安定した冗長接続リンクを確保できます。

複数の地域にまたがる一貫したUX
エンドユーザーは、車両の現在地に関係なく、ストリーミング、ナビゲーション、リモートサポート機能などが安定して機能することを期待しています。NTN機能の搭載により、OEMは一貫性のある車内ブランド体験とデジタル体験を世界中で提供できるようになるでしょう。

新たな収益モデルの実現 
ソフトウェア定義型車両で使用量ベースの課金、オンデマンドサービス、機能アクティベーションを維持するには中断のない常時接続の確保が必須です。NTNカバレッジにより、こうしたビジネスチャンスがすべての市場で実現可能となるでしょう。

NTN分野におけるテクノロジーの進化

統合の実現に向けた大きな技術的ハードルが解消されたいま、自動車業界は地上系と非地上系両方のデータソースを統合する車両設計の実現に向けてようやく動き出そうとしています。一方で、ソリューションや規格は進化し続けています。車両コネクティビティをサポートする重要技術として以下が挙げられます。

NTN-IoTおよびNTN-NR 
NTN-IoTは、アラート、診断、車両テレメトリなどの低データレートアプリケーションに適しています。エネルギー効率の良い帯域を利用することで広範なカバレッジをサポートします。NTN-NR、つまり5G新無線周波数帯は、V2X、インフォテインメント、高度ADASなどのハイスループットのユースケースに適しています。よりデータ通信容量の高いチャンネルで動作し、ロバストな通信性能をサポートします。

ビームフォーミングとビームステアリング 
動的ビームステアリングを備えたフェーズドアレイアンテナは、移動中のリンク安定性を維持する重要な技術です。干渉を低減させシグナルインテグリティを最大化する効果があり、特にmmWave(FR2)NTNの実装には不可欠な要素です。

5G統合:NTNコンテキストにおけるmmWaveの役割
mmWave帯域は高価値ユースケース向けに超高速データを提供しますが、障害物のないLOSの確保と緊密に統合されたビームステアリングシステムの搭載が前提条件となります。NTNとの統合により、データ量の大きいインフォテインメントやエッジクラウドの大規模な提供が可能になるでしょう。

設計上の課題とエンジニアリングの優先事項

車両システムへの非地上系ネットワークの統合は、ハードウェア、ファームウェア、システムアーキテクチャ関連の課題が複雑に絡み合った新たな設計面での課題につながります。必要とされる設計タスクとして、地上系ネットワークと衛星ネットワーク間のシームレスなデュアルモード切替機能の開発が挙げられます。これには、コンパクトで高密度なプラットフォーム内での信号ルーティング、電力効率、放熱性能の最適化などが含まれます。

このような状況では、アンテナの取付位置が特に重要となります。車両ルーフなどの理想的な取り付け領域には恐らくレーダー、LiDAR、およびその他のセンサーシステムのアンテナ機器がひしめき合っており、その他に空気力学や車両デザインの観点からの設計制約も存在するでしょう。エンジニアは、クリアな信号品質と車両の美しさ・機能性のバランスがとれたカスタマイズされたソリューションの開発を迫られることとなります。

また規制コンプライアンスの課題によりさらに複雑性が追加されます。TNおよびNTNの使用周波数帯は世界の市場ごとに大きく異なりますが、基本的には3GPP(3rd Generation Partnership Project)iなどの国際団体が最新規格や帯域割り当てを策定し、世界無線通信会議(WRC)iiが最終決定を行う流れとなります。システムを設計するにあたっては、世界の各地域にまたがって今後も継続するであろうこうした変化に備える必要があります。

最後に、混雑したRF環境においてシグナルインテグリティを維持するには、能動的なEMI管理が必須です。共有スペクトル動作は干渉リスクを高めるため、安全の確保が極めて重要な高帯域幅アプリケーションの設計においては、シールド、フィルタリング、アンテナ隔離の実装が不可欠です。

NTNとコネクテッドカーの今後の展望

コネクテッドカーのエコシステムは、低軌道(LEO)および中軌道(MEO)衛星の配備拡大に伴い、重要な転機を迎えつつあります。衛星配備拡大により低レイテンシーと帯域幅の増大が保証され、TNとのシームレスな統合が可能になり、中断のないグローバルサービスの維持が実現されます。

同時に、3GPPやWRCのようなフォーラムが主導する国際的な取り組みにより、国境を越えた周波数スペクトル帯域調和化の進展が期待されます。こうしたトレンドの結果、車両は複数の国や地域など法規制の異なる区域をまたいで移動する際にも継続的なサービスを享受でき、コネクティビティの障壁が排除されるでしょう。

非地上系コネクティビティがこれからのグローバルモビリティに期待されるベースラインとなりつつある中、レジリエンスのある性能の保証とさらなる普及の加速には、先見性のあるエンジニアリングが不可欠です。

Molexは、自動車メーカーやTier 1サプライヤーによる現在の需要と将来の機能間のこうしたギャップの解消を支援できる立場にあります。RFに関する深い専門知識を持ち、アンテナやシステム関連の統合スペシャリストのグローバルチームを擁するMolexは、設計チームとの連携により、堅牢なハードウェアコンポーネントから完全統合されたサブアセンブリーまで、カスタマイズされたNTN対応アーキテクチャの開発を進めています。こうした連携アプローチにより、OEMはデータ、信頼性、リアルタイムインテリジェンスが重視されるモビリティ環境において、他社を引き離して先頭に立つことができるでしょう。

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Molexは、カスタムRFソリューション、高性能アンテナ、高度なNTNエクスペリエンスなど、お客様の目標に合わせてシミュレーション、検証、グローバル認証などのニーズをサポートします。

詳しくはこちらの車両アンテナポートフォリオをチェックしてください。またカスタムエンジニアリングサービスについてはMolexのNTN専門チームにご相談ください

i. 3GPP(3rd Generation Partnership Project)は、NTN統合を含む各種モバイル通信プロトコルの定義を担う国際標準化組織です。
ii. 世界無線通信会議(WRC)は、グローバルな周波数帯域割り当て方針に対する影響力を有しており、国際市場全体における通信コンプライアンスを保証する役割を果たします。

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ウェビナー

未来の車両のためのユニバーサルコネクティビティの実現に向けて

未来の車両はどのようにしてコネクティビティギャップの課題を克服できるでしょうか? このオンデマンドウェビナーでは、5G mmWave、FR1 MIMO、NTN衛星などの先進テクノロジーソリューションについて説明します。ロバストで信頼性の高いV2X通信の実現に向けて、Molexがどのように高性能アンテナシステムの設計を進めているかをご紹介します。 

V2XおよびNTN信号波を利用して高速道路を走行する車両。

技術概要

ユニバーサルコネクティビティと未来の車両

自動車メーカーは、通信容量やカバレッジに関する終わることのない課題を克服し、場所に関わらずどこでも信頼性の高いV2X接続を提供するよう期待されています。この技術概要では、5G FR1 MIMO、mmWave、NTN衛星システムがどのようにパフォーマンスを向上させ得るか、またMolexがそれらの技術の最新車両アーキテクチャへの統合をどのように推進しているかをご紹介します。

市街地を走行するコネクテッドカー。