産業とアプリケーション
「ハイプサイクル」という概念は、これまで数え切れないほどのテクノロジーに付きまとってきました。まず、新たなテクノロジーおよびその初期製品とソリューションは、高く評価されます。そして、納品が遅れると幻滅が訪れます。そして最後に、冷静な評価が勝利を収めるのです。おそらく、5Gほどハイプサイクルの概念に縛られたテクノロジーは他にないでしょう。しかし、新たなテクノロジーの真の可能性を目の当たりにした時に人々は興奮を覚え、興奮がもう少し早く訪れて焦りが忍び寄るかもしれないことも理解できます。それも当然でしょう。5Gが、3G/4G/LTEの継続的なサポートを必要とする暫定期間を乗り切り、コロナが重大な遅延戦術として立ちはだかる中、市場は5Gが完全に実装されることを強く望んでいます。市場はそれを必要としているようです。
5Gの「キラーアプリ」ドライバー
モレックスと第三者調査会社のディメンショナル リサーチ社が最近発表した「5Gの現状」調査によると、4Gにとって動画がそうであったように、5Gには「キラーアプリ」が必要になると、61%の人が考えています。一般消費者は、スマートフォンのアプリが、5Gの可能性からどのような恩恵を受けられるのかだけを知ることになるでしょう。しかし、5Gの可能性はモバイルワイヤレスとそれができることだけに限られてはいません。実際には、「固定ワイヤレス」も5Gの約束されたフィードとスピードの向上を利用でき、これは消費者にも産業界にも新たな利点の世界を開くことになります。
都市の高密度化の問題を考えてみましょう。今日、私たちはすでにこうしたプレッシャーに直面しています。例えば、スポーツスタジアムでは、8万人のファンが一斉に写真を撮影し、ほぼ同時にアップロードしようとすると、大きな問題に直面します。仮に、各写真のアップロードに2~3Mbsの帯域幅が必要だとすると、8万人のファンでは、LTEネットワークのクラッシュは避けられません。
そこで5Gの登場です!
医療技術の進歩が急ピッチで進むヘルスケアを含め、5Gが自動車やその他の産業製造分野に大きな進歩を約束することは明らかです。技術的に一旦整合がとれれば、5Gとそれを可能にする多数の広範な分野にわたるアプリケーションが、すべての人の向上のためにシームレスに連携するシナリオは、私たち全員が当然と考える主流の現実になるでしょう。
経済的な障壁
通信事業者にとっての経済的な障害には、インフラ費用や初期投資費用などがあります。5Gテクノロジーは、これまで4Gサービス向けに展開されていた技術よりもはるかに高いパフォーマンスを低コストで実現できるにもかかわらず、現実には、消費者が機器の導入やアップグレードに消極的な、より低迷している経済状況の中での登場となっています。その一方で、パンデミックとそれに関連した在宅勤務(WFH)のトレンドは、潜在的な展開スケジュールに影響を及ぼしています。しかし、パンデミックの流行が和らぐにつれて、需要が高まり、楽観的な見方が広まり、新たなテクノロジーや機器の導入が加速する可能性があります。
「5Gの現状」調査によると、通信事業者の99%が、5Gが2~5年以内にエンドユーザーに大きな利益をもたらすという意見に同意しており、ユーザーはすべての地域において5Gの価値を評価していることが明らかになりました。もちろん、この方程式には通信事業者の大きな投資が考慮されています。周波数スペクトルには莫大な費用がかかり、物理的なインフラも考慮に入れる必要があります。さらに、新たな基地局ができるたびに「トラックロール」が必要になれば、その費用はかさみます。経済的なハードルは、ROIを推進する住民の少ない地方では特に深刻であり、これには通信事業者による何年も先の鋭い経済予測が必要です。
技術的なファインチューニング
5Gの導入には技術的なトレードオフが伴いますが、それは驚くことではありません。良いニュースは、調和のとれた5Gの最終目標に向けて、何年も前から多くの企業や個人が努力していることです。知識は広まり、企業間の協力も緊密です。
例えば、6GHzを超えるミリ波(mmWave)周波数帯の使用は、データスループットと速度の向上をもたらすかもしれませんが、シグナル伝播はマルチパスシグナルの分断、パスロス、パケットロスの影響を受けやすくなります。そのため、フェムト、マクロ、ナノ、ピコを問わず、さまざまな新しい基地局やスモールセルの急増が急務となっています。
高いミリ波周波数は、同軸伝搬に指向性をもたらします。ビームフォーミングとビームステアリングが必要となります。可能な限り「見通し内」伝搬をサポートし、その恩恵を受けるために、また、MIMO、「巨大MIMO」テクノロジー、ビームステアリングによってマルチパスを軽減するために、アンテナ設計は非常に重要になります。
実際には、現在の過渡期では3Gと4Gのサポートは維持されています。5Gのエアインターフェイスである「New Radio」(NR)は、3Gや4Gと共存するデバイスです。Wi-Fi、Bluetooth、GPSタイプのナビゲーションなど、さらにいくつかの無線を追加すると、スリムなスマートフォンが相対的に、突然分厚いスマートフォンになる恐れがあります。
つまり、業界のコンセンサスでは、5G無線は現在、移行期の6GHz未満の周波数用に設計されており、3Gや4Gと共存しなければなりません。今のところ、これは数ギガバイトの動画ダウンロードが数秒で完了するとされる5G革命には及びませんが、エンジニアはその革命を目指し続けるでしょう。
歩み寄りと協力
5G仕様の次の主要なバージョンが3GPPから発表されるのは、2022年以降になる見込みです。これが5Gの進化です。
5Gの進展は、より現実的なものであり、通信事業者は、5Gの難解なテクノロジー要件を理解し予測する製造業者やテクノロジープロバイダーと連携する必要があります。この新たなテクノロジーの波の複雑な設計と製造の要件をサポートするには、数十年にわたる専門知識と膨大なソリューションポートフォリオを備えたモレックスのような企業が必要です。
また、携帯電話メーカー、通信事業者、研究開発機関は、モレックスのMID/LDSテクノロジーなど、小型化のための積極的な革新技術について協力する必要があります。GaNおよびその他の広バンドギャップ トランジスターのような、より大きなパワー用の新たな部品が必要になるかもしれません。さらに、基地局のバックホール用に新しい光ファイバー用ケーブルを敷設する必要があり、基地局やセル自体にも大量の光ファイバー用ケーブルが必要になります。
これにはすべて時間と大規模な投資が必要で、逆説的ですが、最終的にヒーローになるのは通信事業者ではなく、ケーブルメーカーやコネクターメーカーかもしれません。新たな光ファイバー用ケーブルを敷設するには、何しろ費用がかかり、何十年もかけて習得した専門知識が必要です。
待つ価値のある5G
5Gの実現には、複雑なデバイスに繊細な同軸アンテナとコネクターを適切に組み込むために、冷静な判断力と、製品および同軸システム製造の専門知識と熟練度の両方が必要です。モレックスの5G研究開発への深い関与には、新たな設計、最先端の製造装置と技術の活用、ものづくりの進歩のための新たな高周波同軸テストチャンバーの使用などがあります。
モレックスは、通信、IoT、および自動車市場に有用なフォームファクターで、歩留まりが高く、コスト効率の高い製品を製造します。複数の国際的なモレックスの同軸チームは、5Gイノベーションにおける専門知識を拡大するために、5Gコンポーネントの設計と製造プロセスを継続的に進めており、OEMは市場投入までの競争で優位に立つことができます。
5G技術の進歩は、漸進的・探索的・革新的で、顧客のニーズに高度にカスタマイズされたものになるでしょう。当社は、5Gがもたらす多大なメリットを信じています。リアルタイムに近い速度でML/AIを可能にし、インダストリー4.0や自律走行車の実現に向けた重要な実現技術です。また、規格が合意され実施されれば、新世代のハイテクゲームや医療分野に影響を与える可能性のあるAR/VRテクノロジーが刺激されるかもしれないと考えています。
その課題はよく知られていますが、ミリ波テクノロジーは未来を担うものです。モレックスの調査「5Gの現状」によると、このテクノロジーは、通信事業者にとって設備投資と運用コストの比率が有利になる2~3年以内に業界で受け入れられるようになるとのことです。ミリ波の伝搬は、6GHz未満の周波数に比べてはるかに厳しい公差を必要とし、そのためコストがかかることを念頭に置くと、5Gはまだそのハイプサイクルの期待に応えていません。しかし、きっと応えます!