産業とアプリケーション
この大規模な自動車電動化レースの最終的な勝者を判断するにはあまりにも時期尚早ですが、最も勝率が高いのは、混乱を受け入れ、革新的なエンジニアリングに力を与える自動車メーカーとサプライヤーであると考えられます。
モレックスが実施した調査「自動車の電動化におけるイノベーション」で明らかになったように、EV環境では無限のチャンスが生まれています。この調査において、自動車業界のほとんどのステークホルダーはEV市場について「課題は残るものの大躍進を遂げようとしている」と回答しています。
EV市場を代表する各企業は、テクノロジー、スタイル、消費者が求める機能について、どのような新戦略を今すぐ採用してこのレースを勝ち抜き、市場シェアを獲得するのでしょうか? その回答によって、現在の自動車とそれを製造する業界の改革が進むことになります。
混乱と変革
テスラ社の躍進によって自動車業界に新たな時代が訪れるとともに、自動車製造や消費者の需要について長年主張されてきた多数の仮説の正当性も疑われるようになりました。現在、大手自動車メーカーは方針を180度転換させています。EV市場には多数の新規プレーヤーが参入し、独自コンセプトのEVを販売しています。
こうしたプレーヤーがEV市場にどの程度リソースを投入するのか、そして競争優位性を獲得できる設計イニシアチブにどの程度投資するのかを見ることで今後の兆候を読み取れるかもしれません。
10年前、韓国の自動車メーカーであるキアやヒョンデといえば、安価なモデルを販売するメーカーとして知られていました。ヒョンデは現在、姉妹企業のジェネシス社と連携してEV市場に軸足を置いた戦略を取っています。IoniqやEV6、ジェネシス社のGV60などは大胆で印象的なプロファイルを持つエレクトリカルなデザインであり、現代の自動車に期待されるフォームファクターに対抗しています。
他の国際的な開発でも同じような状況です。中国はEV市場で瞬く間に優勢になり、EVの生産と並行して充電インフラストラクチャーの増設を進めています。全世界で金利が上がり、スタートアップ企業への投資が停滞しているにもかかわらず、中国はバッテリー、半導体チップ、EVに政府資金を投入し続けています。
BMWは最近、ドイツにおけるEVの生産台数がほぼ2倍になったにもかかわらず、MiniのEVモデルの生産拠点を中国に移しました。フォルクスワーゲンは、EV用バッテリーの生産に203億8000万ドルを投じています。
こうした大きな動きは、自動車業界のエコシステムに重大な影響を与え、多数のOEMの運命を逆転させることになります。今後10年以内に、現時点で優勢な自動車メーカーやティア1~2のサプライヤーにリストされる名前がごっそり入れ替わるかもしれません。市場ダイナミクスを理解してそれに適応する企業は繁栄する一方、ここでためらった企業は完全に消え去ってしまう可能性があります。
新たなビジネスモデルとパートナーシップの登場
EV市場のトポロジーが明確になる中、企業は市場への適応と収益性の確保を加速化できる新たなビジネスモデルを試行しています。
自動車メーカーは充電ネットワークを強化するため、業界内の他社と連携し、ホテルやレストランとのパートナーシップの構築、さらには既存のガソリンスタンドの再構築を進めています。その他のアプローチとして、EV用ポータブル充電器や、スパークチャージ社が提供するオンデマンドのEV充電ネットワークをはじめとする革新的なサービスが挙げられます。スパークチャージ社が提供する最新モデル、Roadie V3は容量がさらに大きくパワフルになり、充電時間も短縮され、充電時出力は90kW~125kWと、トラックの充電にも十分に対応できます。
車載ソフトウェア駆動型サービスの普及がさらに進み、自動車の特徴や機能の更新の枠を超えた機能が実現しています。最初に取り組みを始めたのはBMW、ダイムラー、フォルクスワーゲンであり、テックカンパニーとして自社に再投資を行っています。他の自動車メーカーも科学技術への精通度を高める計画を策定して追随しています。
2021年12月、ステランティス社は「サステナブルなモビリティテックカンパニー」に向けた変革の一環として、AIを搭載した車載ソフトウェアの計画を発表しました。その対象となるのは14車種、3,400万台です。そうすることで、この世界第6位の自動車メーカーは、音声命令によるカーナビの起動、電子決済、オンラインショッピングといったインターネットベースの機能とサービスで消費者を取り込もうとしています。
ステランティス社の発表から数日後、最大手自動車部品サプライヤーのボッシュ社はインフォメーションドメイン コンピューターを発表し、車載機能に対するコミットメントを強化しました。ボッシュ社の高性能システムは、車載テクノロジーを制御する究極のコントロールユニットとして設計され、車内における通信、決済、動画ストリーミング、音声アシスタントなどに対応します。
半導体チップ不足という逆風
現在、長引く半導体不足のため、EV生産は全世界で低迷しています。米国では8月、国内で新設される半導体製造工場に520億ドルの補助金・助成金を提供するCHIPS法が成立しましたが、今なおいくつかの障壁が残っています。工場建設に数年かかるだけではなく、多くの工場はコンスーマ向けデバイスに搭載する最先端の5nm以下の半導体チップの生産を計画しているため、28nmの半導体チップを使用する自動車メーカーは、設計を見直さない限り窮地に陥ります。半導体チップ不足は、米国だけではなく、欧州やアジアでも続くと見込まれています。
実際、フォード社のFocusに一般的に使用される半導体チップの数は約300個であるものの、同社のEV新型車のひとつには最大3,000個使用される可能性があり、それを考えると、EVの普及が進むことでICチップ不足が深刻化すると考えられます。これは消費者が、安全機能の追加に加え、電子タッチスクリーンやコネクテッドフォンアプリでシートや音楽、照明の調整を行える機能といった同乗者の快適性を求めているからです。
こうした機能は、車両全体にはりめぐらされた多数のミニコンピューターに接続された電子制御ユニット(ECU)によって制御されます。とはいえ、ゾーンアーキテクチャへの移行により、ミニコンピューターの数を減らし、それらをいくつかのさらにパワフルなユニットに置き換えて中央のCPUに接続することでこの困難な問題を変化させることができます。
モレックスが実施した調査によると、大部分の回答者は「EVの未来はゾーンアーキテクチャにある」と回答しています。半導体チップの必要数を減らすことは、この現在の制約を緩和する上で役立つことになります。
すべては消費者しだい
新たな車種やビジネスモデルが急増していますが、このレースを最終的に決定付けるのは消費者の嗜好です。EVプラットフォームは異なる推進装置への一種の切り替えですが、激しい競争によって、自動車所有経験のあらゆる側面に関するクリエイティブな見直しが活発になっています。
リヴィアンは「エレクトリックアドベンチャービークル」としてアピールされ、スノーボードなどの用具を収納するスペースを備えています。また、フォード社のF-150 Lightningの所有者はフロントトランクを冷蔵ケースに変えることができ、あらゆる移動販売業者の羨望の的になっています。EVの競争からどのメーカーが抜きん出るかは、時間を経て分かってくるはずです。最も明確なビジョンを持ち、消費者が望む、あるいは想像したこともないほど魅力的な機能を組み合わせて提供する企業が勝利を収めることになるでしょう。
モレックスは30年以上にわたって自動車分野にエンジニアリングと革新を提供しており、今後も大手自動車メーカーやサプライヤーと連携して最先端のエンジン制御部品、パワートレイン用接続部品、堅牢なケーブルとコネクターの開発を進めていきます。ここでもコラボレーションの輪が広がっており、最高のテック企業がその輪に加わっています。モレックスはこのレースについて、車載ディスプレイ、ユーザーインターフェース、インフォテインメントの機能の提供を改善して未来の車の販売を推進するものであると理解しています。
この大規模な自動車電動化レースの最終的な勝者を判断するには、あまりに時期尚早であるとは言えるものの、最も勝率が高いのは、破壊を受け入れ、これを革新的なエンジニアリングの力につなげる、自動車メーカーとサプライヤーではないかと考えます。
弊社実施の調査、自動車の電動化におけるイノベーションによって明らかになったように、EV環境では無限の機会が生まれています。 この調査では、ほとんどの自動車業界ステイクホルダーが、課題は残りながらもEV市場は大きなブレイクスルー目前であるという回答を選択しています。
EV市場を代表する各企業は、車載テクノロジー、外観スタイル、ユーザーが求める機能のうち、どれを新たな戦略領域とし、どの企業がこのEV市場で一番のシェアを獲得することになるのでしょうか?この問いに対する答えが、未来の自動車の形や業界の景色を決めることになるのでしょう。
破壊と変革
Teslaの躍進によって、自動車業界に新たな時代が開かれ、同時に長い間当然とされてきた、自動車生産や消費者のニーズに関する大前提も崩されようとしています。上位の自動車メーカーはこの頃、180度の方針転換を行っているようです。今、EV市場には多くの新たなプレイヤーが参入し、それぞれに個性的なコンセプトのEV車両を販売しています。
これら新たな顔ぶれの企業がEV市場でどのようにリソースを投資し、どのようなEVデザインを仕掛けて優位に立とうとしているのかを見れば、将来のEV市場の発展の方向性や何かの兆しを読み取ることができるのではないでしょうか。
10年ほど前まで、韓国の自動車メーカーの起亜と現代といえば、安価な自動車メーカーとして知られていました。ですが現代自動車は今では、姉妹企業であるGenesisを介し、EV市場にも軸足を置いた経営戦略を取っています。IoniqやEV6、GenesisのGV60などの広告を見ると、彼らの電気自動車のデザインは、実に大胆でドラマチックな躍動感を前面に押し出したもので、一般に想像しがちな未来のクルマのイメージに挑戦している印象を受けます。
EV車の周囲環境にも、各国の独自の方針が見て取れます。短期間でEV市場をリードする位置にまで来た中国では、充電インフラの増設と並行してEV車が大量に生産されています。利上げやスタートアップ企業への投資の停滞など、世界的には減速感が漂うなかでも、中国では、政府によるバッテリーや半導体、EVへの資金の投入が続けられています(英語)。
BMW(英語)は最近、ドイツ本国でのEV生産台数がほぼ2倍(英語)になったのにもかかわらず、MiniのEVモデルの生産拠点を中国に移しました。フォルクスワーゲン(英語)は、EV用バッテリーの生産向けに200億3千800万ドルの資金を振り分けるとしています。
このような大きな動きは、自動車産業のエコシステムに強烈な影響を与えますし、多くのOEMの命運を左右することになるでしょう。今後10年以内には、現時点で上位に名を連ねている自動車メーカーやTier1、Tier2サプライヤーの名前は、ごっそり入れ替わってしまうのかもしれません。市場ダイナミクスを理解し適応する企業は繁栄し、ここで弱気になった企業は市場から消えていくことになるのではないかと思われます。
新たなビジネスモデルとパートナーシップの開始
EV市場の全体を俯瞰してみると、各企業とも、変化する市場への適応と収益性の実現を早期に果たすべく、新たなビジネスモデルを用いた試行錯誤の状況にあるようです。
自動車メーカー各社では、充電ネットワーク強化のため、業界他社との協働や、宿泊施設や飲食店、さらには既存の給油所への充電ステーションの設置協力を求める取り組み等を行っています。その他のアプローチとしては、EV用のポータブル充電器を使用する方法や、SparkChargeが提供しているような革新的なオンデマンドのEV充電サービスなどがあります。SparkChargeが提供する充電器の最新モデル、Roadie V3は、容量増により充電時間が短縮しており、充電時出力は90 kW ~ 125 kW(英語)と、トラックの充電にも足りるレベルにまでなっています。
車載機能に関しては、頻繁な更新が可能な、ソフトウェア駆動型のサービスも拡大しています。ソフトウェア駆動型機能の充実については、まず先頭を切ったのがBMW、ダイムラー、フォルクスワーゲンの各社で、当該分野の自社の能力を強化するための様々な取り組みや再投資を進めており、その他のメーカー各社も同様の方向性で追従しています。
2021年12月には、Stellantisが、同社の「サステナブルなモビリティテックカンパニー」への変革の一貫として、AIを搭載した車載ソフトウェアの計画を発表(英語) していますが、対象車両は14車種、3,400万台です。この、世界第6位の規模を持つ自動車メーカーでは、たとえばカーナビゲーションをボイスコマンドで操作できるとか、電子決済や、ネットショッピング機能といった、インターネットをベースとした機能とサービスで顧客を獲得することを目指しているのです。
Stellantisの発表から数日後には、最大の自動車部品メーカーであるボッシュ (Bosch) が、車載コンピューター、 インフォメーションドメインコンピューターを発表(英語)しました。ボッシュの車載コンピューターは、車載機能を制御する究極のコントロールユニットとして設計された、車載通信、決済、ビデオストリーミング、ボイスアシスタントといった機能を処理する高性能システムです。
半導体不足という逆風
現在、長引く半導体不足のため、EV車の生産台数は世界的に低調となっています。米国では8月にCHIPS法(英語)が成立し、アメリカ国内に新設される半導体製造工場への520億ドルの支援金投入が決まりましたが、それでもいくつかの障壁は残ったままです。工場の建設には数年という時間を要するという問題だけでなく、多くの工場はコンシューマー向け製品に搭載する最先端の5ナノ以下の半導体の生産を目指しているため、自動車業界向けの28ナノ品の製品は視野外です。これから車載チップの設計を見直しでもしない限り、CHIPS法に大きな効果は期待できないと考えられるのです。半導体不足は、アメリカ国内だけでなく、ヨーロッパ(英語)やアジア(英語)でもまだ続くと予想されます。
実際、例えばフォードのFocusには平均で300個、しかし同社のEVの新型車の一部には最大で3,000個もの半導体チップを使うそうで、EV車の普及が進むにつれ、ICチップ不足は悪化(英語)することが見込まれます。自動車に多くの半導体が必要になったのは、安全機能を増やして欲しい、タッチスクリーン (シートや音楽、車内の照明の調整が行える) やアプリとの連携機能を備えた同乗者にとっての快適さを考えたクルマが欲しいという、消費者からの要望に応えなければならないからです。
このような機能は、車両の隅々にまで搭載された多数の小さなコンピューターに接続された、ECU (エレクトロニックコントロールユニット) で制御しています。ゾーナルアーキテクチャへの移行によって、今ある小さな多数のコンピューターをパワフルな少数のユニットに置き換えて中央のCPUにつなげる構成とすれば、車両1台が必要とするチップの数は減ります。
モレックスが実施した調査では、大半の回答者が、EVの未来はゾーナルアーキテクチャにあると回答しています。アーキテクチャの移行によって必要なチップ数が減ることが、現在の半導体不足の緩和につながると思われます。
決めるのは消費者
新たな車種や新たなビジネスモデルは続々と生まれていますが、売れ行きを決めるのは、消費者の嗜好です。EVへの移行は、単に自動車の推進装置が置き換わったという話では終わらず、この先激しい競争が見込まれますし、自動車を所有するということについて、創造力を働かせあらゆる面から再考する必要があるのかもしれません。
たとえば、“Electric Adventure Vehicle”(「エレクトリック・アドベンチャー・ビークル」)をブランドイメージとしたRivian (リヴィアン) のEVは、スノーボードなどのアウトドア用品の収納スペースを備えています。また、フォードのF-150 Lightningは、従来のピックアップにはなかった、フロントのトランクスペースに電源を供給して冷蔵ケース等を置くスペースとして使える点が魅力のようです。EV市場獲得レースの参加集団の中から、どのメーカーが先頭に出ることになるのかは、時間が教えてくれることでしょう。いずれにせよ、消費者が欲する、あるいは夢にも見たことがないような、斬新で最強の特徴や機能の組み合わせを、明確なビジョンとし、製品化した会社が勝者になるのだろうと考えます。
さて、モレックスは、自動車分野にエンジニアリングとイノベーションを提供して30年以上になる会社ですが、弊社はこれからも、大手自動車メーカーやサプライヤーと協力し、最先端のエンジン制御部品やパワートレイン用接続部品、堅牢なケーブルとコネクターの開発を進めていきたいと考えています。弊社の周りでも、コラボレーションの輪は広がり、先端のテック系企業との協働なども生まれています。このEV市場獲得レースにおける弊社の役割は、将来の自動車の販売台数の増加につながるような、車載ディスプレイやユーザーインターフェース、インフォテインメント関連製品の提供を拡大することであると考え、これからも優れた技術の提供に努めていきたいと考えております。