産業とアプリケーション
初期の拡張現実(AR)デバイスや仮想現実(VR)デバイスは、自宅に居ながらにして没入体験ができる未来の土台を作りました。そのビジョンは、コロナのパンデミックとそれに続くメタバースの出現がきっかけとなった遠隔インタラクションの台頭によって、さらに拡大しています。しかし、メタバースそのもののコンセプトと同様、ARやVRデバイスの普及は大きなハードルに直面しています。手術手技の訓練や製造装置の操作方法の学習など、専門的アプリケーションでの利用は増えているものの、消費者の利用はこれまでのところ、主にゲームに限られています。
AR/VRデバイスが他のウェアラブル製品のように消費者に普及するのを妨げているものは何でしょうか。
首や目の疲れからユーザーエクスペリエンスそのものまで、さまざまなハードルが存在しますが、その多くに共通するのは「快適性」です。今後のAR/VRデバイスは、まず快適性を重視して設計しなければなりません。コードレスのVRヘッドセットに、ディスプレイ、光学システム、増え続けるさまざまなセンサー、触覚デバイス、外部カメラ、オーディオ・音声システム、ワイヤレス接続、バッテリー、仮想環境をレンダリングするために必要な処理能力、そのプロセッサーの過熱を防ぐ冷却システムを含めると考えると、難題になるでしょう。ここではまだヘッドセットの内部についてしか考えていません。外部の筺体そのものにも、高い耐久性と長時間装着できる軽さが必要です。
こうしたハードルに対する万能の解決策はありませんが、その多くはデバイス内の電子部品の小型化、特に接続性に関する部品の小型化で対応できるでしょう。結局、部品の小型化はその軽量化を意味しており、ヘッドセットの軽量化は快適性を向上させる手段の1つです。とはいえ、軽量化とは単に重量を減らすというだけではなく、同時に機能性を向上させるということです。
ここで、小型化した接続ソリューションが、快適性と機能の新時代を通じてAR/VRデバイスの普及を後押しするであろう、軽量化以外の3つの方法を紹介します。 それぞれが多くの設計上の課題を表していますが、その多くはまったく予想外のものです。
1. より明るく、より没入感のあるディスプレイ
多くの人にとって、VRデバイスが優れているかどうかは、それがユーザーにもたらす没入感のレベル次第であり、それを左右するのはデバイス内のディスプレイの品質です。OLEDやMicroLEDディスプレイを切手サイズに縮小しつつ、少なくとも90Hzのリフレッシュレートと4Kを超える解像度を実現しようとすると、多くの課題が発生します。
- 電子密度が高くなると、電磁干渉(EMI)のリスクが高まる。
- 解像度が高くなるにつれて、シグナルインテグリティとノイズが問題になる。
- 高解像度のディスプレイは、発熱量が増加し、電圧降下の影響を受けやすくなる。
- こうしたディスプレイは多くの場合、より大きな電力を必要とする。
小型化したコネクターは、単にスペースの節約になるだけではありません。そのコネクターには、EMIシールド、革新的なピンレイアウト、熱緩和機能、さらには組み立てを容易にする機能が組み込まれています。小型化は、ディスプレイがバッテリーの性能に与える影響も軽減します。ウォータールー大学のチームは、ソリッドステイトライティング設計と高度な電子回路を組み込んだエネルギー効率の高いディスプレイを開発し、製造コストを削減しつつバッテリー寿命を30%延ばしました。
さらに、小型化したコネクターは、内蔵の視線追跡システムを利用し、目の焦点が合っている場所にのみ高品質の画像をレンダリングして処理能力を最小化する、中心窩レンダリングのような革新的なディスプレイ機能を可能にします。中心窩レンダリングは、ディスプレイとプロセッサーの負担を軽減できますが、より高度な中心窩レンダリング技術では、カメラその他の光学センサーの設置スペースを確保する必要があります。
2. ひずみの少ない光学システム
ディスプレイはVRヘッドセットの視覚システムの一部に過ぎません。もう1つは光学系です。光学レンズには小型化したコネクターの直接的な影響はないように思えるかもしれませんが、明瞭さと性能に大きな影響が出る可能性があります。
光学システムでは、スペースが最も重要であり、物理法則によって厳しく定義されます。レンズのサイズ、形状、厚さ、基板は、着用者がレンズを通して見る範囲と見え方を決定し、ヘッドセットの全体的な重量と実装面積を左右し、光学的ひずみに影響します。色収差は、特に物体の外側で色が混ざってぼやける現象で、このような視覚システムの設計で克服しなければならない特有の問題の1つです。
今日のヘッドセットは、収差が発生しやすく、かさばるフレネルレンズから、より合理的なパンケーキレンズに移行しはじめています。パンケーキレンズには、色収差の低減やソフトウェア画像補正への依存度の低減など、フレネルレンズよりも多くの利点がありますが、光の吸収量が多くなるため、より明るいOLEDやMicroLEDディスプレイ用のスペースをヘッドセット内に確保する必要が生じるのが特徴です。
また、小型化したコネクターは、電圧を印加して焦点距離を変える調整可能な液晶レンズなど、電子工学と光学のギャップを埋める、より高度な光学システムへの道を開きます。これにより、従来のような大型の光学設計が不要になり、ヘッドセットが顔からはみ出す量を減らすことができます。
小型化したコネクターは、他にどのようにして光学システムを改善できるでしょうか。
- 光学レンズは温度変化に反応しやすい。小型化したコネクターは、熱安定性を改善して、光学エラーを最小限に抑えることができる。
- 光学システムは、視覚の明瞭さを維持するために特別に調整しなければならないが、その性能はユーザーによって異なる場合がある。将来のVRデバイスは、着用者自身の視覚の傾向や弱点に対応しなければならない。小型化したコネクターでは、機械的ストレスを軽減し、プラグアンドプレイ機能を向上させることで、光学システムのモジュール性、アライメント、安定性を確保しやすくなり、ユーザーがレンズを交換できるようになる。
3. よりスマートな感覚体験
今日の最も高性能なARおよびVRシステムは、よりリアルなグラフィックス、ライティング、全体的な視覚的没入感のための処理能力を提供する外部コンピューターへのケーブル接続を必要とします。机に向かって使用する際には問題ないかもしれませんが、ケーブルがあることで制約が多くなり、偶発的切断を招きやすく、怪我のリスクも高まります。
このようなデバイスの未来は、現実世界から仮想世界へのシームレスな移行に必要な高解像度体験を提供できる、完全に自己完結した、ケーブルのないユニットにあります。ただし、それは単に高性能なCPUやGPU、また専用のAI処理チップがあればいいということではありません。真の仮想体験には、以下のようなセンサーが必要です。
- 動きと加速度を検出するモーションセンサー
- アバターに表情を反映するフェイシャルトラッキングセンサー
- 触覚や抵抗を模倣する触覚フィードバックセンサー
- 複合現実体験や偶発的事故回避のための環境検知センサー
- 生理的反応を検出する生体測定センサー
- ノイズ除去や音声制御のためのオーディオ・音声検出センサー
- 仮想環境内の正確な位置を伝えるための位置トラッキングセンサー
小型化したコネクターが必要なのは、さまざまなセンサーとプロセッサーのスペースを確保しつつ、安定した電力と信頼性の高い即時データ伝送を保証し、何度も突発的な動きや振動が起こる状況でデバイスを使用するための耐久性を実現するためです。ディスプレイと同様、センサーと演算素子のこの密度は、EMIを増加させ、シグナルインテグリティに影響を及ぼし、熱のリスクを増幅する可能性があります。 また、デバイスの複雑さが増すと、振動や急加速など、使用時の影響で損傷する危険性のあるコンポーネントも増えます。没入型体験を生み出す際には、こうした要因によって遅延や、眼精疲労や温度による身体的不快感、全体的な混乱が生じることがあります。
また、将来のVRは、レンズが交換できるモジュラー光学システムだけでなく、プロセッサーやセンサーでさえ時間の経過とともに追加したり取り外したりできる、完全なモジュラーデバイスになる可能性があります。このモジュール性を向上させるのは、アップグレードプロセス中に複雑なケーブル配線が干渉することによる損傷やエラーのリスクを低減できる、小型化したコネクターです。
モレックス: 小型化した接続ソリューションのリーダー
AR技術とVR技術の将来を左右するのは、快適で没入感のある消費者体験です。ただし、軽量化や前面の重さを取り除くことだけが快適性ではなく、眼精疲労をなくし、自由に動けるようにして、入力とフィードバックの遅延などを最小限に抑えることも大切です。
そこで、モレックスの広範なエンジニアリングの専門知識と小型化における実績が重要になります。小型化した相互接続ソリューションの幅広いポートフォリオの目的は、耐久性と信頼性を確保しつつ、ARおよびVRデバイスの多くの課題に取り組むことです。たとえば、基板対基板用4列コネクターは、千鳥配置レイアウトで30%の省スペースを達成し、最大3.0Aの電力を供給でき、世界で最も売れているスマートウォッチで実地試験をして、2020年以降、5,000万個以上を出荷しています。また、完全にEMIシールドされたフレックス対基板用同軸ミリ波コネクター5G25シリーズは、省スペースで高速伝送用機能と堅牢な嵌合を実現しており、スペースに制約のあるアプリケーションでの機能性向上に最適です。
デバイスに小型化、軽量化、高性能化、快適性を求める消費者の期待に応えるOEMにとって、今や小型化は必須事項です。モレックスのグローバルな分野横断的チームは、設計の初期段階から製造、消費者の需要に応える納期達成に至るまで、お客様との協力的アプローチを通じて、イノベーションを推進しています。
モレックスの小型化ソリューションの詳細については、こちら(https://www.molex.com/ja-jp/trends-insights/miniaturization)をご覧ください。
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