産業とアプリケーション
スピードと俊敏性を備えたイノベーションは、現状を打破することに意欲的な起業家にとって至高の目標かもしれませんが、最もユニークで独創的なアイデアを探し出すのは複雑なだけでなく、コストや時間もかかりすぎるということがよくあります。今日、イノベーションには数えきれないほどさまざまな形と大きさがあると認識することがこれまで以上に重要です。
イノベーションは、根本的な変化をもたらすテクノロジーといった形で生まれることも、単に何かを実行するより良い方法として生まれることもあります。同様に、より経済的な素材を使用した製品の再設計や、ビジネスプロセスを管理する方法の変更も、それが組織とお客様により大きな価値をもたらすならば、革新的であると言えます。
私は今年の秋の初め、すべての部門全体でのイノベーションの促進に焦点を当てる地域組織、Chicago Innovation Foundationが主催するPractical Innovator’s Dayで、志を同じくする思想家たちのパネルに参加しました。長年にわたるサポーターとして、モレックスは1年を通じて開催される各種イベントに参加することを誇りとしています。イベントには、Illinois Student Invention Convention、毎年恒例のChicago Innovation Awards、そしてノースウェスタン大学のケロッグ経営大学院で開催されたPractical Innovator’s Dayなどがあります。
この1日限りのイベントの一環として、ケロッグ経営大学院のシニア教員、および今年のChicago Innovation賞の100の最終候補からの参加者と交流するために、5人のモレックス従業員が選ばれました。私とともにPractical Innovatorのパネルを務めたのはさまざまな業界のエグゼクティブたちで、成功を収めるイノベーターの主な特質の他、イノベーションの文化をインスパイアする方法に関するアドバイスを共有しました。
完璧さよりも進歩
実践的なイノベーターを目指す人の重要な特質の1つは、決断力を持って迅速に行動するように他者をインスパイアする能力です。大きなステップで前進するのではなく、小さなステップを積み上げていくことは、直観に反するように感じるかもしれません。特にエンジニアは、問題を深く掘り下げ、包括的で正確なソリューションを考案するように訓練されています。
しかし、今日の目まぐるしく変化する世界では、独創的なアイデアと現実的な目標のバランスを考慮することが重要です。「可能性の芸術」を受け入れるには、パフォーマンスやお客様の期待を満たすための達成可能な目標が組み込まれた実験と継続的な学習が必要です。
タスクの完了よりも成果の達成に焦点を当てる場合は特に、継続的な実験や製品イテレーションから学ぶべき貴重な教訓があります。これには、異なるメンタルモデルに加えて、従来の製品開発プロセスでの変更が必要です。各ステージを完璧にこなすことを目指すのではなく、創造的な側面とより功利的な探求のバランスを取ることで、最終製品が望ましい結果をもたらし、商業的に実現可能で利益を生むことを確実にするほうが有益かもしれません。
イノベーションの未来
創造性と実用性のバランスを取るにはマッスルメモリーも必要です。だからこそ、複数の観点から問題を検討することによってコラボレーション環境を育むことが不可欠なのです。このため、モレックスは他の取り組みに加えて、2024年5月に第1回Innovation Leadership Summitを開催し、3日間に及ぶテクニカルトーク、リーダーシップワークショップ、そして人脈作りやチームビルディングの機会のために、モレックスの各事業部門から最も有能な人材を集めました。
42,000人の従業員(5,000人のエンジニアを含む)を抱えるグローバル組織として、このイベントは、輸送、データ通信、産業、医療、消費者産業を含む主要市場全体でのイノベーションの推進に役立つ、新たなレベルの知識共有を実現しました。このサミットでは、エンジニアリングコミュニティの中で、より自由に、そしてより頻繁にコミュニケーションを取るきっかけにもなりました。その結果として、私たちは、世界中のチームを団結させ、お客様のために革新的かつ実用的な接続ソリューションを開発するための新しい生産的な方法を模索しています。
ピボットと再創造
モレックスは、植木鉢や子供のおもちゃの製造に使用されていた工業用プラスチック副産物を開発したフレデリック・クレービエルによって1938年に設立しました。モレックスが成形可能な熱可塑性プラスチックのメーカーとしての創業当時から、革新的な接続ソリューションの主要プロバイダーとしての現在の地位を確立するまで、一連のピボットを経験してきたのは明らかです。その過程において、モレックスのリーダーたちは、コントロールできた要因と、コントロールできなかった不測の事態を検証することで、モレックスの成長への道を定めてきました。
ピボットして再創造する能力は、モレックスの中核的戦略であり続けています。私たちが従業員とお客様の双方にとって有益な価値をもたらす収益性に優れたアクションに絶えず着目してきたのはこのためです。この理念は今日も変わらず、他者のために優れた価値を創造することで長期的な成功を促進する、Kochの原則に基づいた管理フレームワークによって強化されています。これを達成するには、会社が何を達成しようとしているのかを従業員が理解すると同時に、原則に則った方法でこれらの目標を達成するための権限が従業員に与えられていることが極めて重要です。
典型的なブレインストーミングセッションは、さまざまな潜在能力と可能性を持つたくさんのアイデアを生み出すことができます。インサイトを探り出す能力は、欠点があっても興味深いアイデアをより良くする方法を見出す上で特に重要です。さまざまなアイデアに関するディスカッションや評価で学ぶ事柄は、チームがコレボレートし、実験して、お客様の問題を解決する方法を明らかにします。
意図的なカスタマーアライメント
成功を収める企業は、その世界の中心にお客様を位置付けることで、定期的に意見を求め、フィードバックに注意深く耳を傾けます。どの製品やサービスが提供されるかは関係ありません。最も重要なのは、「どのような問題を解決するのか」、そして 「なぜそれが大事なのか」という核心的な質問に答えながら、どのように製品を差別化するかということです。また、計画と製品ロードマップをすり合わせることで、お客様の長期的なニーズに応える最善の方法を予測する必要もあります。
実践的なイノベーターは、相互利益を促進する機会の妨げになる事柄を最小限に抑えながら、包括的なビジョンからの逸脱を回避することで、全員の認識を一致させておくことができます。また、強みと弱みの評価においても現実的です。これは、経験や専門知識における重要なギャップを埋めながら、各々の強みを補完するスキルを持つ人々のチームの構築を可能にします。
簡素化、定量化、優先順位付け
イノベーションジャーニーに出発することは困難になり得ます。実践的なイノベーターが取るべきステップについて尋ねられたときに、私が「インパクトvs.労力」マトリックスを共有するのはこのためです。このシンプルなツールは、必要となる労力が最も少ないにもかかわらず、組織に最も多くのメリットをもたらす最も革新的なイニシアチブの特定と優先順位付けを簡単に行えるようにします。反対に、このマトリックスは、最も多くの労力が必要になるのに、全体的なインパクトが最も小さい可能性のあるアイデアも特定します。輝かしいアイデアや無駄にコストがかかるアイデアを見つけるのは比較的容易ですが、新しく、真に革新的なアイデアのほとんどは、これらの間のどこかに当てはまります。
だからこそ、労力を減らす、または考えられる取り組みのインパクトを高めるためにはどのステップを踏む必要があるかについてオープンな対話を持つことが非常に重要なのです。これは、デジタルトランスフォーメーションなどの主要プロジェクトでは特に重要です。生成AI、デジタル・ツイン、予測エンジニアリング、シミュレーションなどの最新のデジタルツールを用いて業務をモダナイズする機会には、広範囲に及ぶメリットがある一方で、他方ではより良い従業員体験と顧客体験を確保しながら、人々が新しいテクノロジーとやり取りする方法を検討することが必要不可欠です。1つの方法は、大規模な革新的アイデアを、人々がためらうことなく取り組んで簡単に実現できる現実的で小さな成果物に分解することです。そうすることで、アイデアが受け入れやすくなり、導入も促進されるからです。つまるところ、イノベーションは、実用性を十二分に備えた状態で提供されるときに、偉大な成果のインスピレーションとなり得るのです。