産業とアプリケーション
既存の組み立てラインでは、製品の欠陥が見つかると検査官が赤い緊急停止ボタンを押します。エンジニアやマネージャーが駆けつけてラインにおける問題を特定し、その解決にあたります。この場合、業務全体が停止するだけでなく、どれぐらい停止するのかも分かりません。それぞれの遅延によってコスト試算が狂ったり、生産スケジュールが延びたりする可能性があります。
インダストリー4.0の大きな目標はセルフモニタリングの組み立てラインを実現することです。検査と修正が自動化され、コスト増につながる生産遅延がなくなります。
このシナリオでは、直接的な人間の介入なしにビジョンシステムによって品質問題を特定することができます。機械学習(ML)モジュールがリアルタイムで視覚データを分析して機械の調整を計算し、ライン上にある次の製品のコースを修正します。
産業におけるこの「自動修正」機能は今後さまざまな形を取る可能性があります。顔認証の類推に使われるものと同じ高度なMLをトレーニングすると、3Dプリントされた部品のレイヤー内の欠陥を見つけることができます。レーザーによるスキャンや計測によって配置から外れた部品を検知することができます。既存のロボットやコボットに追加のハードウェアのアタッチメントを取り付けたり、自律工場車両(AFV)や製造業におけるモノのインターネット(IIoT)デバイスが導入されるようになっており、自己修正は時間とともに進化していく可能性があります。
コンベヤーの停止ボタンを押さなくてよくなるという見通しは魅力的な事業目標です。完全に自動化された工場では、生産時間がもっと予測しやすくなり、コストやスケジュールの超過リスクが低下します。ヒューマンエラーのリスクも低くなります。間もなくAIは自身のルールに基づいて品質を最適化できるようになり、マニュアルによる検査の限界をはるかに超えることになるでしょう。
真のスマート工場を実現しようというあらゆる努力には共通の特徴があります。新たな電力インフラが必要になる、というものです。
配電
スマート工場では、生産作業の実施に向けて大型化した機械と新しい大規模情報ネットワークの両方に向けた電力需要が高まります。
この通信と制御のレイヤーにはカメラやセンサー、アクチュエーターや制御ユニットといった配線やデバイスが含まれます。自己修正の組み立てラインにはさまざまな電気的なアップグレードも必要になる可能性があります。たとえば、変圧器、電力供給の開閉装置、分電盤などで、こうしたものが追加的な負荷に対応するために必要です。
理想的なスマート工場のシグナル/パワー部品とは、現場を乗り切る耐久性とデータセンターインフラの特徴であるスピードと信頼性を組み合わせたものです。
米国保険業者安全試験所(UL)や全米防火協会(NFPA)といった業界標準団体はすでにこうした要件や新たに発生する他の問題を見越しています。たとえば、現場に動力源のあるデバイスが増えると、機械の性能を阻害しかねない周波数も増えます。つまり、サーボモーターなどに含まれるような精密電子機器は特に同じ環境で近くにあるデバイスの影響を受けやすくなる、ということです。
電力の質
データセンターでは一般的に電力の質を確保するために追加的な措置を講じています。未来志向の産業施設もこれにならって、よりスムーズで信頼性の高い電流を生み出しています。
電力の質に重きを置いたスマート工場は新たな種類の構成要素を呼び物にするようになるかもしれません。たとえば、容量バンクを採用すると供給ラインへの変動をなくすことができます。需要サイドでは、可変周波数ドライブがあればロボティックモーターのソフトスタートが可能になります。可変周波数モータードライブは加速中に電力に大きな負荷をかけずに、数秒間にわたって均等に電力を消費します。
途絶しない組み立てラインを目標としているのであれば、通信や制御ライン、データ処理といったものが動き続けることが不可欠です。データセンターではよくあることですが、重要なコンピューティングユニットにそれぞれ専用のバッテリーのバックアップを備えることがあります。工場もデータセンターも、バッテリーに加えて、エネルギーの現場調達で電力低下による影響から身を守ろうともしています。
AI駆動型の自己修正が拡大するにつれて、工場の電源管理担当者が決定すべきことが増えています。電力供給を切り替えるタイミングもその1つにすぎません。幸いなことに、AI駆動のデータ分析によって工場は他のものも手に入れることができます。つまり、電源のモニタリングや管理の能力向上です。モレックスの電源に関する調査に参加した800人以上の設計エンジニアにとって、これは歓迎すべきことでしょう。電源システムの設計や導入における主な優先事項について尋ねた質問では、エネルギー効率の向上(74%)、コスト削減(64%)、電源システムの状態のモニタリング強化(53%)の順で回答がありました。
電源モニタリング
リアルタイムのAI駆動型診断は製品の欠陥修正のためだけのものではありません。未来のスマート工場は、業務全体の電圧や電流のレベルを追跡できる制御システムからもメリットを受けるでしょう。
それぞれの製造活動による電力消費をモニタリングすることで、マネージャーは総電力利用が物理的な限度や法定限度を超えないようにすることができ、過去のデータを踏まえて活動に必要な電力を予測することができます。
マネージャーは電力診断ツールによってアップタイムを最大限に活用し、予測できる移行期間中に予防的保守を計画することができます。電力消費を細かく見ることで、業務マネージャーは利用可能な電力の制限をもとに生産活動をどのように追加できるかが分かります。
リアルタイムの電力モニタリングによって、ロードバランシングが向上し、伝送損失が削減され、配電システムのレジリエンスや柔軟性が改善することにもなるでしょう。
データが増えると電力も増える
電源システムエンジニアリングのプロフェッショナルに対する最近のモレックスの調査では、産業用途で最も大きな課題として挙げられたのは、他を大きく引き離して電源管理でした。この産業分野で働くエンジニアやマネージャーの3分の1以上が電源管理と回答したのです。同様に、データセンターのプロフェッショナルにとっても電源管理が最大の課題でした。電源管理を挙げた回答者は40%に上り、同じように他の項目と大差を付けました。
未来の工場において自動化、データ分析、最新のテクノロジーが出会うことで、電源管理に独自の課題が生まれるだけではなく、自律や制御に関する新しいレベルの機会も生まれています。
製造企業はEMIに伴うリスクを乗り越える必要があります。スマートツールに対する依存が高まる中ではなおさらです。ビジョンシステムによる自己調整組み立てラインを取り込むと、精度や品質、生産性を高めることができます。さらに、電源インフラ用のリアルタイムのAI駆動型診断を使うと、工場においてその業務を最適化し、コンプライアンスを確保しつつダウンタイムを最小限に抑えることができます。
未来の工場が形作られていく中で、製造プロセスにおいて新しい水準の効率性、生産性、イノベーションを引き出すためにはデータの力を生かすことが不可欠です。
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