産業とアプリケーション
運転の自動化が一段と進むにつれ、自動車メーカーは工程と設計を見直す必要が出てきています。中でもエンジニアが考慮しなければならない課題は、増え続けるセンサーとカメラの搭載用スペースです。特に電気自動車にはセンサーとカメラが満載で、上位モデルのEVには基本的に100個以上のセンサー(英語)が搭載されています。
この傾向を後押ししているのが、消費者の強い要望です。McKinsey & Companyの調査(英語)によると、消費者の66%が、先進運転支援 (ADAS) 機能が手に入るなら、好みの車種から乗り換えてもいいとコメントしているほどです。
先進機能の典型例は、車線逸脱防止機能です。2021年上半期にアメリカ合衆国内で販売された新車の63%(英語)、ヨーロッパ域内の同56%、日本国内の同52%が、この機能を搭載しています。ただ、アダプティブクルーズコントロールや自動緊急ブレーキ、死角の危険検知といった、その他の先進支援機能を搭載している車となると、搭載している車種の割合はぐっと減ります。
ほとんどの消費者が、完全自動運転車を運転する用意はできていないと言うものの、最近実施されたJ.D. Powerの調査によると、55%が、自動運転の講習があればそれを受けたいと思う、と回答しています。
さて、ADASシステムの採用は順調に進んでいるのですが、完全自動運転にいたるまでには、まだ越えなければならない法律上のハードルがいくつかあり、実現はずっと先のことであると思われます。自動車技術者協会 (SAE) は、自動運転を0 (運転自動化なし) から 5 (完全自動運転) までレベル分けし、各レベルごとの自動化の度合いを説明しています。
では、各レベルについて、詳しくみていきましょう。
レベル1は、車線内走行機能、またはブレーキが介入して周囲車両との安全距離を維持するアダプティブクルーズコントロールの、いずれか一方が機能するが、これら両方同時には機能しないレベルです。
レベル2では、ハンドル、ブレーキ、アクセル[操舵と加減速]が自動で作動する運転支援機能を実行します。ドライバーはハンドルに触れた状態をキープする必要があり、ハンドル操作が行われていないことをADASシステムが検知すると、ドライバーに注意を促します。レベル2の現在最新のものがテスラのオートパイロットやGMのSuper Cruise™で、これらの運転支援機能では一定条件下でのハンズオフ運転が許可されます。ただし、このレベル2では、ドライバーは自車の位置を把握し道路に視線を向けておく必要があります。
多くのレベル2システムは、カメラを使用してドライバーの前方注視の状況を監視しています。これらの自動運転車には、従来のような、車両全体に個別に動作する小さなエレクトロニックコントロールユニット (ECU) を100個以上搭載する方式ではなく、車両上の主要領域ごとにミニコンピューターを適切に配置して、それぞれを中央の高性能コンピューターにつなげた、効率的なカーエレクトロニクスアーキテクチャを使用しています。この、ゾーナルアーキテクチャが、最新の自動運転機能を実現する鍵です。Statista(英語)によると、2025年までに、世界中で販売する車の63%が、少なくともレベル2以上の自動運転機能を搭載した車になると予測されています。
レベル3では、自動車自身が自動で走行しますが、ドライバーは運転席に座って走行状況に常に注意を払い、必要時には運転操作を引き継がなければなりません。メルセデス・ベンツのドライブパイロット(英語)は、世界で初めて完全な自動運転のレベル3の認証を取得し、現在、このレベル3を搭載した車はドイツ国内で販売されています。その他のメーカーでも、2023年にはレベル3自動運転車の発売を予定しています。
レベル4では、人間による運転操作の介入なしで自動車が運転を実行しますが、これは指定されたエリア内かつ気象状況が安定した場合に限定されています。緊急時には自動運転システムが介入し、車両に機械的な故障が発生したと判断した場合には自動で安全に路肩に停止します。
フランスの企業であるNavya(英語)は、レベル4の自動車を販売しており、同社の一部モデルはアメリカ国内でも限られた区域内で運用されています。また、ダイムラー、Waymo、GMの各社はいずれもレベル4の自動運転車の実用化を進めており、一部モデルは2024年に市場に投入される可能性があります。
アーリーアダプター:トラクター、トラック、ロボタクシー
レベル5の完全自動運転は、パッセンジャーカーにおける実現は、まだ何年も先です。ですが、もっとコントロールの効いた環境下で稼働するその他の車両では、本格自動運転が着実に進んでいます。
工場内を移動する車両などでは、もう何年も、自動運転で運用されているものがあります。農業分野では、農家がコンピューターやスマートフォンで遠隔制御する無人の自動運転トラクターが、畑を耕しています。このような自動運転車両は、障害物を回避しながら、毎日8~12時間、休憩なしで働いてくれるため、時間と労力が大幅に節約できます。
高速道路上での自動運転を最初に実現するのは、トラックでしょう。トラックは予測可能なルートを走行するため、疲れることもなく、トラックドライバーに定められている休憩時間を取る必要もありません。自動運転のレベルとしては低くともADASシステムを搭載した車なら、地方都市の国道のような道でも楽な運転に貢献してくれます。テスラとダイムラーはすでに、自動運転トラック実用化計画を策定し、一部モデルでは路上走行テストを済ませています。
スマートフォンのアプリで呼び出しが可能な、無人で旅客を輸送するロボタクシーは、すでに中国で稼働しており、テクノロジー企業のBaidu (百度) は、5年前のロボタクシーのテスト走行の開始以来、輸送回数がすでに百万回(英語)に到達したとしています。Baiduでは、2030年までに中国国内での営業範囲を拡大する予定で、数十都市ほどが追加されるということです。アメリカ合衆国では、Tesla、GM、Maymo、その他の企業がロボタクシー事業に参入しています。しかしながら、この分野でも、他分野での自動運転の実用化の場合と同様に、法律や技術的な面での障壁がまだまだ多く残っています。
自動化と、つながる車の未来
拡張する5G通信ネットワークを利用して自動車同士、あるいは自動車と道路インフラや交通管制等の公的機関 (V2X) が、直接通信する、自動運転のイメージを通して見ると、つながる未来というビジョンがより明確に見えてきます。つながる車でV2Xが実現する未来においては、クルマ自身がルートを調整して渋滞や危険を回避しながら交通流を最適化するようになるでしょう。緊急車両には余裕を持って道を開け、医療機関への到着時間を予測して医療機器やスタッフを手配しておくことも可能になると考えられます。
自動運転によって、輸送というものは大きく変わり、もっと安全でもっとサステナブルな手段になっていくと考えられ、ドライバーは車内での時間をもっと自由にリラックスして過ごせるようになり、映画を楽しみながら、あるいは仕事をこなしながら移動することも可能になるでしょう。
このビジョンを達成する、つまりレベル3やレベル4の自動運転の性能に到達するには、自動車メーカーはパートナー企業と連携して、自社の技術を大きく刷新しなければなりません。センサーやカメラから収集するギガビット単位のデータを伝送するには、極めて大きな帯域幅に対応した、熱や振動に耐えるケーブルが必要になります。特にEVにおいては、限られたスペース内に収まり、車重を増やさないためにも軽量で、かつ高負荷に耐えるケーブルでなければなりません。5G通信には、これまでになかった優れた信号強度と整合性を備えた、まったく新しい高品質アンテナが必要になるでしょう。なお、この点について、弊社は、車載専用電子部品の設計に数十年の経験を有し、この経験を基に高速で高信頼性のマイクロコネクターの開発を行っており、さらに、各自動車メーカーやサプライヤーと直接の協働による、ADAS向けの車載カメラやレーダー、LiDARシステムの開発も進めております。また弊社ではすでに、双方向の通信機能を内蔵し伝送性能を最適化したV2X通信用のアンテナシステムも開発しました。
弊社のこのような取り組みは、世界各地の様々な専門分野の関連企業との、長年にわたるコラボレーションの形で進めてきたもので、これからも、もっとつながる未来に向けて努力を続けていきたいと考えております。