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止まらない電動化のレースを制するには

モレックス トランスポーテーション・イノベーティブ・ソリューションズ部門担当シニアバイスプレジデント兼プレジデント
マイク・ブルームグレン

この大規模な自動車電動化レースの最終的な勝者を判断するには、あまりに時期尚早であるとは言えるものの、最も勝率が高いのは、破壊を受け入れ、これを革新的なエンジニアリングの力につなげる、自動車メーカーとサプライヤーではないかと考えます。モレックスが最近行った調査「自動車の電動化におけるイノベーション」によって明らかになったように、電気自動車(EV)エコシステム全体で発明とトランスフォーメーションが加速しており、無限の機会と障害が生まれています。

この調査では、ほとんどの自動車業界ステークホルダーが、課題は残りながらもEV市場は大きなブレイクスルー目前であるという回答を選択しています。伝統的な自動車OEM企業と新興のEV企業のどちらもが、半導体と原材料に関する継続的な制約による苦痛を食い止めるためのクリエイティブなソリューションを模索しながら、専門知識と経験のギャップを埋めようとしています。

実際、フォードのフォーカスに一般的に使用される半導体チップの数は約300個であるものの、同社のEV新型車のひとつには最大3,000個使用される可能性があり、それを考えると、EVの普及が進むことでICチップ不足が深刻化すると考えられます。サプライチェーンの制約は今後も、世界中で市場開拓戦略を妨げるはずですが、エコシステムの整合や世界的なリーダーシップを実現するための新しいビジネスモデルの出現に関して、進歩を止めるべきではありません。

崩壊と変革のとき

大手自動車メーカーやスタートアップの自動車メーカー、そして彼らを支えるサプライヤーは、差異化を進めるためにさらに努力しています。Teslaの躍進によって自動車業界に新たな時代が訪れるとともに、自動車製造について長年主張されてきた多数の仮説の正当性も疑われるようになりました。一方、中国は急速なEV移行に向けた充電インフラストラクチャの構築を迅速に進めながら、新しいEVを供給するために機敏に取り組むことで、EV市場での優位性を獲得、維持するために迅速に動きました。一方、ハイテク主導のドイツの自動車メーカーは、EVの性能と精度に対する標準を打ち出しながら、引き続き優勢な立場にあります。絶え間ない変化と競争の激化の中で、新規参入者に市場シェアを奪われる恐れがある自動車メーカー大手3社はペースを上げています。

過去18ヶ月から24ヶ月の間で、米国の自動車メーカーは多数のEV活動を生み出しました。フォードF-150ライトニングピックアップに対する繰越需要が米国市場で注目を集め、米国でのベストセラー車の電気化バージョンに対する勢いのある成長が見られます。事実、このEVモデルの予約台数は、発売から6ヶ月未満で16万台を超えました。

フォード初の電気トラックが国内EV市場の成長の起爆剤になるとの期待が高まる一方で、リヴィアンやフィスカーなどの新興企業の急速な台頭により、競争力のあるラインナップに変化が生じています。先ごろ2022年モータートレンドトラック・オブ・ザ・イヤーを受賞した、リヴィアンのRIT EVピックアップは、「ピックアップトラックのまさにオリジナルバージョン」として9月に発売されました。ブルームバーグによると、この新興のトレンドセッターは11月に米国証券取引所史上6位となる規模のIPOで上場しました。同社の急速な成長は、フォードとアマゾンからの投資と、2030年までに出荷されるアマゾンからの10万台の配送トラックの注文によって強化されています。

リヴィアンは、積極的な市場拡大を支えるために、最先端の製造施設に投資するとともに、ショールーム、サービスセンター、充電ステーションの全国ネットワークを開発しています。一方、フィスカーは、ソーラールーフと縦向きから横向きに回転する17.1インチのタッチスクリーンディスプレイを搭載した、ハイエンドEVモデルで市場に参入しています。製造大手のマグナとフォックスコンに生産を委託するという同社の決定は、モバイルおよびコンスーマ向けデバイス企業の生産戦略を一変させる画期的なものです。このアプローチは、最速かつ最も効率的な方法で大量の車両を市場に投入する上で、競合他社と大きく差をつける可能性があります。

これらの変化は自動車エコシステムに大きな影響を与えるでしょう。今後10年以内に、現在の従来型の自動車メーカーやティア1~2のサプライヤーにリストされる名前がごっそり入れ替わるかもしれません。市場ダイナミクスを理解してそれに適応する企業は繁栄する一方、ここでためらった企業は完全に消え去ってしまう可能性があります。

新しいビジネスモデルが台頭

急成長するEV市場のビジョンが明確になる中、企業は市場への導入と収益性の確保を加速できる新たなビジネスモデルを試行しています。電池工場や充電ステーションのインフラストラクチャへの投資など、いくつかの一連の機会は、市場参入に対する現在の障壁を克服するでしょう。充電をもっと簡単にできるようにするために、ホテルやレストランとのパートナーシップの強化、さらには従来のガソリンスタンドの在り方を考え直すなど、自動車メーカー間の協力が期待されます。また、EV用ポータブル充電器や、SparkChargeが提供するオンデマンドのEV充電ネットワークをはじめとする革新的なサービスも登場しています。

バンドルサービスの導入は、自動車メーカーがより多くの車を販売できるよう支援することを目的としています。GMは2020年にオンスターを通じて使用量ベースの自動車保険を販売する決定を発表しましたが、これはコネクテッドカーによって収集されたデータを活用する絶好の機会となります。特に、ソフトウェア駆動型サービスの普及がさらに進み、自動車の特徴や機能の更新の枠を超えた新しい機能が実現しています。最初に取り組みを始めたのはBMW、ダイムラー、フォルクスワーゲンであり、テックカンパニーとして自社に再投資を行っています。他の自動車メーカーもハイテクとソフトウェアへの精通度を高める計画を策定して追随しています。

12月7日、ステランティスは「サステナブルなモビリティテックカンパニー」に向けた変革の一環として、AIを搭載した車載ソフトウェアの計画を発表しました。その対象となるのは14車種、3,400万台です。そうすることで、この世界第6位の自動車メーカーは、音声命令によるカーナビの起動、決済、オンラインショッピングといったインターネットベースの機能とサービスで消費者を取り込もうとしています。

数日後、自動車部品サプライヤー最大手のボッシュは、情報ドメインコンピューターを発表し、車載機能の進化への注力をさらに進めました。ボッシュの高性能インフォテインメントドメインコンピューティングシステムは、車載テクノロジーを制御する究極のコントロールユニットとして設計され、車内における通信、決済、ビデオストリーミング、音声アシスタントなどに対応します。

モレックスは、この取り組みに参加し、クアルコムやテキサスインスツルメンツを含む他の大手テクノロジー企業と並び、ボッシュと協力できることを誇りに思っています。協力してこのパワフルなプラットフォームをサポートし、未来の自動車の車載ディスプレイ、ユーザーインターフェイス、インフォテインメント機能の開発を追求していきます。

それでも消費者が中心

運転の楽しさを表すドイツ語に「fahrvergnüegen」という言葉があります。これは、フォルクスワーゲンの記憶に残るマーケティングスローガンである以上の意味があります。これは、新しいEVを発売するにあたって、大手自動車メーカーも新参のメーカーも念頭に置かなければならないことを端的に表しています。たくさんの新ビジネス展開やカーモデルが消費者に豊富な選択肢を与えますが、究極の決め手となるのは常に、運転体験への顧客の欲望です。

単にA地点からB地点まで、できる限り安全かつ効率的に移動したいという消費者もいれば、今までにない運転を楽しみたいという消費者もいます。EVで取り組む余地はかなりあり、自動車メーカーはクルマの使い方をクリエイティブに考えているのです。リヴィアンは「Electric Adventure Vehicle(エレクトリックアドベンチャービークル)」としてアピールし、スノーボードなどの用具を収納するスペースを備えています。一方、フォードのF-150ライトニングのオーナーはフロントトランクを冷蔵ケースに変えることができ、あらゆる移動販売業者の羨望の的になっています。もうひとつの魅力的な機能は、トラックの双方向バッテリーを通して、平均的な住宅1件を3日間機能させるだけの電力を送ることができるというものです。

EVの競争からどのメーカーが抜きん出るかは、時間を経て分かってくるはずです。心を掴むEVを市場に出すための明確なビジョンと、最も説得力のある計画を備えたメーカーが残っていくでしょう。30年以上にわたって自動車業界に根付いてきたモレックスは、EV革命の最前線に立っています。当社は、重要な自動車接続が百万マイルに及ぶ過酷なアプリケーションに耐えられるよう徹底するために、新しい化学物質および金属組成を探索しながら接触物理学の改良を続けています。

エンジン制御とパワートレイン接続に関する自動車関連の経験を引き続き活用し、従来の自動車メーカーと新興自動車メーカーの両方、そして、そのトップサプライヤーとの信頼できる協力体制を強化していきます。同様に重要なのは、高速ネットワーキング、モバイルおよびコンスーマ向けデバイス、コネクテッドモビリティおよび車両アンテナシステム、さらには電力およびシグナルインテグリティに関する専門知識を活用するモレックスの能力です。

究極の運転体験を追求することはモレックスのDNAに組み込まれています。そのため、私たちは車の電動化の競争に勝つ戦略の一環として、全力で意欲的に突き進む準備が整っています。