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スマートデバイスはスマートなものを求める

医薬品は、何十年にもわたり、患者を治療するにあたって医療機器に依拠してきました。これらのデバイスは、ステントやシャントから透析装置や人工呼吸器までその複雑性に幅があります。このデータ時代に暮らす私たちは、デバイスの接続、管理、取付、および運用の分析を行うようプレッシャーをかけられており、健康への影響は飛躍的に大きくなっています。つまり、私の腕時計が私の心拍と酸素飽和度を共有できる時代に、医師が処方したモニタリング装置も関連する医療インサイトを提供できるはずではないでしょうか?

これらのデバイスを生産している多くの企業にとって、課題はアナログの機械的なデバイスからコネクテッドモデルへの移行方法です。それは段階的なステップではなく、会社が持つスキル、専門知識、展望そしてビジネスモデルにおける大掛かりな移行が求められます。コネクテッドデバイスの設計と製造を始めるのであれば、以前は開発プロセスの一部において必要ではなかった2つの重要な分野、エレクトロニクス設計と組み込みソフトウェア設計の導入が必要になります。これは設計の複雑性を増加させ、第3の分野であるシステムエンジニアリングの導入によって対処しなくてはなりません。このようなデバイスをクラウドベースのバックアップと分析サービスに接続すると、プロセスはスタンドアロンデバイス設計から、クラウド内で調整されたデータ収集、データ報告、データ分析サービスを行うことのできるコネクテッドデバイス設計へとシフトするため、さらに複雑さが増します。

コネクテッドデバイスへの移行もまた、設計にあたって資格および規制要件が複雑になります。これらはたとえば、医療デバイスソフトウェアの設計管理に対応するEN62304規格の遵守や、医療用電子機器と在宅医療に使用するシステムの安全性と性能に関するIEC-60601-1技術規格の要件などを含みます。どの規格が対応するか、規格のどの部分がこの設計に関係するか、また必要な遵守認証を取得するにはどのプロセスと記録が必要かなどを理解するだけでも、多くの作業があります。1つ例を挙げれば、IEC-60601は多くの異なるタイプのデバイス設計について個別の規格を定義しており、認証を得るにはそれらの細かな意味に従うことが重要です。

完全に機械的な医療機器の生産から、エレクトロニクスとソフトウェア、接続性、クラウド分析を組み込んだデバイスへと切り替えることは、デバイスの価格設定方法も変更となり、シンプルな購入からより複雑なコストモデルへと変化します。設計プロセスは、部分的には、デバイスが収集するデータ、誰のために収集するか、そのデータはどれほどの価値があるかなどのデータの使用方法にも左右されます。

非常に基本的な例を見てみましょう。患者の体温を継続的にモニタリングすることが重要であり、デバイスが消費者に対し販売される場合、そのデバイスには小さな画面とシンプルなヒトと機械の間のインターフェースが必要になるでしょう。そのデバイスが純粋にデータ収集のためにのみ使用され、保険会社によって支払われる場合は、ユーザーインターフェースは使用せず、患者の測定値すべてを確実に保管するためのメモリを追加する必要があるかもしれません。後者のケースでは、全体的な設計の条件の中で費用管理ははるかに重要な要素となります。

コネクテッドデバイスの設計課題に対処するひとつの方法は、収集するデータのタイプと、それがどのように利用されるかに焦点を当てることから始める方法があります。ユーザーインターフェースに値を表示することを想定していますか?値が一定範囲から外れた場合はアラーム音で知らせますか?あるいは単に医療提供者にデータをフィードしますか?

データのタイプが決まったら、次のステップはデータをどのように感知するかを決定することです。センサーの種類は通常、希望する測定値の精度、センサーの直接コスト、それを支える回路および、結果的な消費電力と場合によってはセンサーの運用寿命などの関連要素の間の比較考量を通して決定されます。

消費電力の問題はデバイスの有用性において重要であり、コネクテッドデバイスの設計において追加される複雑性の良い例です。大型のバッテリーを使用することで充電サイクルの間隔をあけることができ、データ収集プロセスの完全性を保護できます。一方で患者はかさ張るデバイスの着用、携帯、使用を単に嫌がるため、完全に有用性を損ないます。

コネクテッドデバイスの設計プロセスは、エレクトロニクスの統合、必要な機械的機能の実装、全体的な物理的パッケージの決定の間のバランスを取るトレードオフの作業になります。これには、設計に適したフォームファクタを探し、正しい種類のプリント基板(PCB)を選択することも必要となります。たとえばフレキシブルなPCBはより密度の高いデバイスの開発を可能にする可能性があります。それは望んだ結果ですか? 正しい素材を定義することも重要です。さらに、これらは、人間工学のベストプラクティスを使用して開発されたヒューマン・マシン・インターフェースを確保して行う必要があります。

これらの複数の分野におけるトレードオフの初回のパスは、通常、デバイスが最終的に設計どおり機能することを証明する概念実証で決まります。設計について潜在的なユーザーから関連するフィードバックが共有されます。この情報はその後、製品の最適化、小型化、コスト削減の繰り返しサイクルにフィードバックされ、最終的に生産する価値のある設計となります。これらの作業はすべて、製品が規制要件を満たすことを確実にする設計制御手法に基づいて実行されます。

優れた設計も、それを作る部品を入手できなければ価値がありません。そのため、医療機器で使用する適切な仕様と認証のあるコンポーネントを指定し調達することが重要になります。コンポーネントサプライチェーンが逼迫しているときは、これは言うは易く行うは難しです。初期段階の医療機器は通常は少量生産されますが、設計者は自動製造システムで扱いやすい部品の指定を考える必要があります。さらに、デバイスの設計と製造をよりシンプルでコスト効率の良いものとするために、部品表を最少化することに重点を置きます。

デバイスを製造する適切なメーカーを見つけることも課題となる場合があります。医療機器を作るには施設に特別な認証が必要であり、フレキシブルPCB上に装着する時や、高密度回路を小型筐体に統合する場合などでは、プロセスを扱う特殊な機器が必要になります。これらの製造プロセスにより課された現実世界の制限は、設計において考慮しなくてはならず、製造プロセス検証においても検査されなくてはなりません。製造プロセス検証はヘルスケアにおける高度に専門的な機能です。

最後に、需要と供給が頻繁に変動し、ベスト予測でも、市場と状況、およびそれらをサポートする原材料の不測の変化に対応できない場合、2つめのサプライヤーと製造パートナーもまた重要となります。

機械的医療機器の設計からコネクテッドモデルへの移行に伴うどのような問題も克服できないものではありません。課題は、これらの新しい分野に対し、迅速さと市場機会のある期間に対する感受性の両方をもって対応することです。モレックスはアイデア創出から大規模なグローバル製造までエンドツーエンドのコネクテッドデバイスの開発専門知識を提供します。スマートなコネクテッドデバイスを提供するという成果を、それを求める世界のあらゆる場所で提供するには、微妙な違いを理解し、かつ垂直統合機能と技術的専門知識の両方をもたらす産業パートナーとのコラボレーションが鍵となります。