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ITとOTのギャップを解消し、インダストリー4.0のスムーズな導入につなげる

By Daniel Amirsadeghi
Director of New Product Development and Strategy for Industrial Solutions Business Unit

ほぼすべての主要産業の工場において現在見受けられることは、操業環境における変化の捉え方と対応方法に関し、部門によって大きな違いがあることです。特にこの変化への姿勢の違いが顕著に見られるのが製造業界です。インダストリー4.0の実現につながる新たなデジタルテクノロジーと生産工程の採用を担う、2つの部門の対応能力が試されているようにも見えます。この2つの部門とは、会社の管理ネットワークを担当するIT(情報技術)部門と、機械やロボットとこれらのメンテナンスなどの生産ラインを動作させるOT(運用技術)部門です。インダストリー4.0への移行を円滑に推進しようとする際、この2部門の間に緊張関係が生じていることが分かっています。この状況は、これらのテクノロジーに対する理解、対応、展望における2部門間の明らかな隔たりを浮かび上がらせます。インダストリー4.0を導入したい各企業にとって、このように部門ごとにサイロ化(孤立)したアプローチの存在は障害となる場合があります。

インダストリー4.0は、産業オートメーションのエコシステム全体でデジタルおよびコネクテッドソリューションを採用することであると定義されています。したがって、ITとOTの間の乖離をなくすことは、この変革の実施の成功と、より競争力のある自動化された工場への動きに直接的に関係してきます。

では、なぜこのような問題が存在し、どのような課題を克服する必要があるのでしょうか?

文化的障壁

技術的な障壁に目が行きがちですが、大胆な変化の動きに対する社内のITおよびOT部門の抵抗 (少なくとも賛成はしていない) から見られるように、インダストリー4.0への移行における実際の大きな障壁の一つは、企業の組織と文化です。弊社が最近実施した インダストリー4.0の現状調査によると、44%の回答者が、組織あるいは文化面での障壁が最も克服が困難だと指摘しており、技術的ハードルを指摘した回答 (22%) の2倍になっています。

社内のすべてが上手く機能しているから大きな変化は不要だ、と感じている社員もいるかもしれません。しかし中には、大規模な改善の機会があると感じている社員もいるのではないでしょうか。特に若手社員などは、すべてインターネットで接続してアプリで管理できればいいのにと考えているかもしれません。

回答で最も多かった文化面での障壁 (回答者の45%) には、リーダー層が古典的アプローチに安住しているようで変化を押し進めようとしない、という指摘が含まれていました。リーダー層のこのような姿勢が経営に影響していることは明らかで、回答者の42%が、既存の投資分の価値がまだ出ていないと次の投資に二の足を踏むことがインダストリー4.0への移行の障壁になっているとし、32%が現行の会社組織が変化を阻止していると述べています。

技術的な障壁に目が行きがちですが、インダストリー4.0への移行における実際の大きな障壁の1つは、企業の組織的および文化的な課題です。大胆な変化をどのように生み出すかという点について社内のIT部門とOT部門は抵抗し、少なくとも賛成はしていません。当社が最近実施したインダストリー4.0の現状調査によると、44%の回答者が、組織的または文化的な障壁を最も克服が困難な課題として挙げており、その数は技術的ハードルを挙げた回答(22%)の2倍です。

会社の既存の従業員は、すべてが上手く機能しているから大きな変化は不要であると感じているかもしれません。しかし中には、大規模な改善の機会があると感じている社員もいるのではないでしょうか。特に若手社員などは、すべてインターネットで接続してアプリで管理できればいいのにと考えている可能性もあります。

調査で最も多くの回答者が挙げた文化面での障壁(回答者の45%)には、リーダー層が古典的アプローチに安住して変化を推進しようとしないという指摘がありました。リーダー層のこのような姿勢が経営に影響していることは明らかで、回答者の42%が、既存の投資分の価値がまだ出ていないと次の投資に二の足を踏むことがインダストリー4.0への移行の障壁になっているとし、32%が現行の会社組織が変化を阻止していると述べています。

テクノロジーの変化

オペレーションチームは、現場から上がってくる生産実績に関するデータを多く扱っているものと思われます。そして多くの企業では、この現場データをIT (会社の管理側) のシステムに渡してビジネスの意思決定に用いるためのルートがありません。現場と管理部門がつながっていないせいで、このデータを意味ある情報に変換して、歩留まりや期待するアウトプットからの逸脱等について管理側でもリアルタイムで監視し対処するということが困難、もしくは不可能になっています。

歴史的にOT側のシステムの方が、より複雑で安全や環境に直接的に影響を及ぼす可能性が高く、したがってIT部門のシステムよりも頻繁なメンテナンスと熟練者の監視を必要とします。OT側のシステムの方がより固定的で、ネットワークは (オープンと謳っている場合であっても) 専用プロトコルに基づいていて使いにくいシステムになっているのに対し、ITのシステムの方が柔軟性のあるユーザー志向のデザインと先端テクノロジーを採用したものになっています。ITは業績にすみやかに直結するために関連テクノロジーへの大規模な投資を得やすく、この分野の劇的な進歩にも貢献してきました。

もう一つ考慮すべき重要な要素が、セキュリティです。ハッキング、ランサムウェア、悪意のある攻撃などは続々と出現し、ニュースの話題にも上るようにあらゆる組織にとって大きな問題となっています。インダストリー4.0のシステムのセキュリティ確保については、多くの対策方法がありますが、ここでもまた、2部門間の「エアギャップ」(攻撃者は物理的な空間を越えられない) に安心して、OTとITでの対策を別々に考えがちです。そしてここで、理解と克服が必要となる組織のもう一つの課題が見えてきます。コストがかかってもITとOTの統一が利益と安全につながるのだということを経営陣に納得してもらう、という課題です。

ITとOTの統合のために必要なテクノロジーは何かと考えてみると、ネットワークと通信は間違いなく重要です。OT部門のシステムは、セキュリティ機能を実装しない比較的古いプロトコルを使用していることが多いのに対し、IT部門の基盤は堅牢なインフラストラクチャです。イーサネットは多くのニーズに対応した優れたソリューションではありますが、工場現場に必要な即応性と低遅延を保証するものではないため、すべてのOTアプリケーションに対応するには不十分です。最近の技術であるタイムセンシティブネットワーク (TSN) などは、このITとOT間のネットワークの変換の問題に対応し、イーサネットアプリケーションの対応範囲を拡張しますが、真の意味での統合実現というゴールまではまだ長い距離があります。

その他、IP機能を備えたプロセス管理、センサーネットワーク、データ保存用の安全なパブリックおよびプライベートクラウドといったテクノロジーが、ITとOTの統合促進に関わる重要な役割を引き受けています。Open Platform Communications Unified Architecture (OPC UA) などの標準化の実現に向けた新たなイニシアチブも進んでおり、インダストリー4.0は新しい5G通信ネットワークの重要なアプリケーションの一つとなります。

ITとOTを一つにすることで状況を一変させる

企業のインダストリー4.0導入が進むにつれ、その成果が様々な指標の数値として現れるようになってきています。生産効率の改善、コスト削減、オペレーショナルレジリエンス (変化する状況下における業務の継続能力) の向上などです。ITとOTの両システム間で高コストの元となっている重複部分を取り除けば、インフラストラクチャを簡素化することができます。最近はそれらの俊敏性や柔軟性の向上も著しく、安心安全アなリモートアクセスによって、地球の裏側規模の遠隔地からでも工場を管理できるようになってきています。

実際の現場の変化はどのようになるのでしょうか。モレックスは長年、ITおよびOT部門のお客様を対象に製品やサービスを提供してきました。また、IAS4.0 (Industrial Automation Solutions 4.0) という独自のコンセプトのもと、2部門にまたがる機械装置や業務プロセス間でのシンプルで安全・安心なデータ変換を可能にするための、様々なイノベーションとテクノロジー創出に投資を続けてきました。弊社はこのほか、OPC UAのフィールドレベル通信等のオープン標準やオープンソリューション、自動化システム開発への投資を進めており、クラウドその他ソフトウェアや先端IT技術を使用した自動化システム等はモレックスのIAS4.0の取り組みの中心となっています。これは大まかに言えば、管理の部分は手放さずセキュリティリスクを生じさせることのない形で、情報と情報とをつなぎデータを楽に共有できる仕組みを作っていこうという取り組みです。

モレックスは、企業の文化や変化への抵抗といった障壁を克服する力となれるよう、単純な入れ替えや完璧を目指のではなく、小さな変化を成果として積み重ねながら前進するという姿勢で、関連チームと協力し、すべてのステイクホルダーを巻き込みサポートしながら、インダストリー4.0への動きを促進していきたいと考えています。 

OTとIT部門統一の成功例については、通信や放送業界、スマートビルディング、スマートシティ、フィンテック等、様々な業界でたくさんの例を目にしてきました。どの業界も変革への道程は極めて似通っています。OT部門の制約を解決する理想的なソリューションを見つけることが第一です。このことについては製造業界も例外ではありません。 

ニーズは明白

インダストリー4.0がもたらす利益は莫大ですが、まず多くの企業で、ITとOT部門のシステムの統合問題に対処しなければなりません。弊社の調査では、85%の回答者が、インダストリー4.0を成功させるにはリーダーシップの考えが変わる必要があると答えています。ただ組織が忘れてはならないのは、テクノロジーよりも文化的要素の方が、克服が難しい場合があるということです。

企業文化をインダストリー4.0への移行の遅れや停止の原因にしてはなりません。インダストリー4.0は業界を変革します。製造分野で言えば生産性、効率、アウトプットが低コストで大きく向上する変革です。組織や技術的な障壁を克服してスムーズな移行を可能にするには、文化、プロセス、テクノロジーを含めたエコシステム全体の確実な理解が必要であるということを強調したいと思います。また、その数年先のインダストリー5.0への移行やそれに伴い新たな課題が生じてくることも視野に入れて、確実な基礎を作っておくことが今、必要であると考えています。

OTの世界では、工場の現場から生成されるデータ、多くは製造プロセスの成果に関するデータを扱っています。そして多くの企業では現在、この現場データをIT(会社の管理側)のシステムに渡してビジネスの意思決定に用いるためのルートがありません。現場と管理部門がつながっていないために、このデータを処理して意味のある情報に変換し、歩留まりや期待するアウトプットからの逸脱などについて管理側でもリアルタイムで監視、対処することが困難、もしくは不可能になっています。

歴史的にOT側のシステムの方が、より複雑で安全や環境に直接的に影響を及ぼす可能性が高く、したがって、IT部門のシステムよりも頻繁なメンテナンスと熟練スタッフによる監視が必要になります。OT側のシステムの方がより制約があり、ネットワークは(オープンと謳っている場合であっても)専用プロトコルに基づく使いにくいシステムになっているのに対し、ITのシステムの方が制約が少なく、より柔軟なユーザー志向の設計と先端テクノロジーを採用したものになっています。ITは業績に即座に直結するため、関連テクノロジーへの大規模な投資を得やすく、この分野の劇的な進歩に貢献してきました。

もう1つ考慮すべき重要な要素はセキュリティです。ハッキング、ランサムウェア、悪意のある攻撃の出現が増加し、ニュースの話題にも上るように、セキュリティはあらゆる組織にとって大きな問題になっています。インダストリー4.0のシステムのセキュリティ確保には多くの方法がありますが、「エアギャップ」によってOTとITを分離したままにしたいという誘惑、つまり物理的に接続していないために攻撃者が一方から他方に移動できない状態を維持したいと考える傾向があります。そしてここで、理解と克服が必要となるもう1つの組織的な課題が見えてきます。統一された安全なアプローチには追加のコストがかかるが、そのメリットは投下するコストに見合うということを経営陣に納得してもらうという課題です。

ITとOTの一体化を可能にするテクノロジーについて考えると、ネットワークと通信は間違いなく重要です。OTシステムは、セキュリティ機能を実装しない比較的古いプロトコルを使用していることが多いのに対し、IT部門の基盤は堅牢なインフラストラクチャに依存しています。イーサネットは多くのニーズに対応する優れたソリューションですが、工場の現場に必要なリアルタイムな低レイテンシー性能を保証するものではないため、すべてのOTアプリケーションに対応するには不十分です。最近の技術であるタイムセンシティブネットワーク(TSN)などは、ITとOT間のネットワークの収束というこの問題に対応し、イーサネットアプリケーションの対応範囲を拡張しますが、真の意味での統合実現にはまだ長い距離があります。

ITとOTの統合促進に関わる重要な役割を果たすその他のテクノロジーとして、IP機能を備えたプロセスコントロール、センサーネットワーク、データストレージ用の安全なパブリックおよびプライベートクラウドなどが挙げられます。オープンプラットフォーム通信統合アーキテクチャ(OPC UA)などの新たなイニシアチブによって標準化の実現も進んでおり、インダストリー4.0は新しい5G通信ネットワークの重要なアプリケーションの1つとなっています。

ITとOTを1つにすることで状況を一変させる

企業によるインダストリー4.0の導入が進むにつれ、その成果がさまざまな指標の数値として現れるようになってきています。特に、生産効率の改善、コスト削減、オペレーショナルレジリエンス(変化する状況下における業務の継続能力)の向上などが挙げられます。ITとOTの両システム間でコストのかかる重複部分を取り除けば、インフラストラクチャを簡素化することができます。機敏性や柔軟性の向上も著しく、セキュアなリモートアクセスによって、地球の裏側などの遠隔地からでも工場を管理できるようになっています。

実際、それはどのように実現できるのでしょうか? モレックスは長年、IT部門とOT部門の両方の顧客に製品やサービスを提供してきました。また、ITとOTという2部門を相互接続する機器とビジネスプロセスを、シンプルで安全かつセキュアな方法で収束させることを目的としたIAS 4.0(産業オートメーションソリューション4.0)イニシアチブにおいて、多数のイノベーションとテクノロジーを作り出すための投資も行ってきました。当社はこのほか、オープンプラットフォーム通信統合アーキテクチャ(OPC UA)の現場レベル通信などのオープンスタンダードへの開発に向けた投資を進めており、オープンソリューションと、クラウドなどのソフトウェアと先端IT技術を使用した自動化システムはモレックスのIAS 4.0イニシアチブに欠かせない部分になっています。全体として私たちは、コントロールをゆるめず、セキュリティリスクを引き起こすことのない形で情報をリンクさせ、オープン性とデータ共有を実現させています。

モレックスは、文化的要因や変化への抵抗を克服する力となれるよう、各チームと協力してインダストリー4.0への動きを促進していきたいと考えています。それは全面的入れ替えや、0か100かというプロセスではなく、個々の反復ステップの成功を確実にする段階的アプローチを取ることであり、すべてのステークホルダーの参加とサポートを得ながら行うプロセスです。

OTとIT部門統一の成功例については、通信や放送業界、スマートビルディング、スマートシティ、フィンテックなど、さまざまな業界で多くの例を目にしてきました。これらの成功したいずれの変革においても、そのプロセスは非常に似通っています。実際のOT部門の制約を解決する理想的なソリューションを見つけることです。この点では製造業界も例外ではありません。

ニーズは明白

インダストリー4.0がもたらすメリットは非常に大きなものですが、多くの企業はまずITとOT部門のシステムの統合問題に対処しなければなりません。当社の調査では、85%の回答者が、インダストリー4.0を成功させるにはリーダーシップが思考を変える必要があると答えています。ただ組織が忘れてはならないのは、テクノロジーよりも文化的要素の方が、克服が難しい場合があるということです。

これをインダストリー4.0への移行の遅れや停止の原因にしてはなりません。インダストリー4.0は、産業、特に製造分野がより安価なコストで生産性、効率、アウトプットを大幅に高めることができるような変革を実現します。組織的および技術的な障壁を克服するために、企業は、文化、プロセス、テクノロジーを含めたエコシステム全体をしっかりと理解する必要があることを強調したいと思います。これはこうした移行をスムーズに進めるだけではなく、堅牢な基盤を作り、今後もたらされるインダストリー5.0への移行やそれに伴って生じるどのようなことにも対処できる体制を構築するためです。