産業とアプリケーション
データ・センターは、コネクティビティがますます進む世界において重要なインフラです。しかし、その内部にある機器は厳しい稼動環境に置かれています。熱、湿度、ほこりなどが原因となり、システム障害、ダウンタイム、データ損失が生じる可能性があります。明らかに徹底した環境試験が必要です。
データ・センターは24時間年中無休で稼動しているため、稼動を維持するコンポーネントの信頼性を長期間にわたってテストする必要がありますが、これは寿命数年で連続稼動するデバイスにとっては難しいシナリオです。コンポーネントを通常の運用よりも極端な条件にさらして加速寿命試験(ALT)を実施することで、エンジニアは部品が故障する時期をより早く判断できるようになり、意図する環境に最適化しやすくなります。
ただし、ALTにも課題があります。データ・センターにおける従来の使用環境は空冷でした。しかし、望ましい冷却技術として液浸が登場しています。現在の規格や試験方法は、液浸の冷却シナリオに関する固有の変数に対応していません。
今日のシステムアーキテクトや設計エンジニアは、デバイスをどのように最適化すれば、長期的な信頼性を確保できるでしょうか。その出発点として最適なのがALTです。
加速寿命試験とは
加速寿命試験(ALT)とは、製品やコンポーネントを標準的な動作パラメーター以外の極端な条件にさらして、被試験品を人為的にエイジングし、欠陥を明らかにして、通常動作時の性能を予測するプロセスです。代表的な要因になるのは、熱サイクル、湿度、衝撃、振動その他の基準です。システムやデバイスが連続して長時間稼動することが多いデータ・センターで従来型の試験を行うと、何年もかかる場合があります。ALTはこのプロセスを迅速化することで、メーカーが試験時間を大幅に短縮し、製品開発を加速し、製品の全体的な寿命を判断できるようにします。
ALTの種類
ALTはさまざまに分類できる試験とみなされることもありますが、一般には、定量的カテゴリーと定性的カテゴリーの2大カテゴリーに分けることができ、各カテゴリーにいくつもの種類の試験が含まれます。
定量的ALTの方法
定量的ALTの目的は、故障までの時間を短縮することによってデバイスの予測寿命を判断し、特定の影響因子の下での信頼性を測定するデータを作成することです。一般的に、以下の2つの方法のいずれかを用いてそれを行います。
過負荷加速試験。通常の使用を上回るストレスにさらされる連続稼動製品や使用頻度の極めて高い製品に適した方法です。たとえば、極端な温度に短時間さらすことで通常の温度に平均寿命期間さらす場合の正確なシミュレーションを行えるという観念から、製品やコンポーネントを非常な高温にさらす場合などです。湿度や振動などの要因についても、同様の試験を行うことができます。データ・センターは継続的に運用するものであるため、過負荷加速試験は非常に重要です。
使用率加速試験。より速い速度で、またはより頻繁に機能を実行することで、連続稼動しない製品の故障を迅速にシミュレーションするために使われる試験です。たとえば、コネクターは、嵌合サイクル、つまり、コネクターの着脱を繰り返して、性能仕様に適合しなくなるまでの回数を判断するために試験を行います。この試験の時間を短縮するには、機械的に加える力は通常の動作条件と同じでも、頻度のみ変化させると、着脱のプロセスをより迅速に実行できます。
定性的ALTの方法
特定のストレス下で製品が性能を発揮できる期間を評価するデータを生成する定量的ALTに対し、定性的ALTは故障の原因を特定する方法で、多くの場合、より少ないサンプルサイズで実施します。定性的ALT試験の種類はさまざまで、以下のような方法があります。
高加速寿命試験(HALT)。HALTでは、温度や振動など、同時かつ独立したさまざまなストレスに製品をさらし、故障が発生する場所と原因を明らかにします。ストレスは定量的ALTと同じか、類似したものであることがありますが、HALTの目標は、製品の性能持続時間を評価することではなく、どのように故障するかを明らかにすることです。
高加速ストレススクリーニング(HASS)。HALTが最終決定し、設計が完了した後、製造開始時の信頼性を確保するための最終試験として機能するのが、HASSです。HASSでも、被試験製品をHALTと同じストレスにさらしますが、HASSは特に、製造スクリーニングプロセスの一部として利用されます。
定性的ALT試験には、シェイクアンドベイク試験、拷問試験、象試験などのバリエーションがあります。
コネクターのALT試験: EIA-364
環境分類を含む、EIA-364電気コネクター/ソケット試験手順規格は、電気コネクターとソケットの推奨最小試験手順(ALTなど)を規定しています。各EIA-364規格は、嵌合力および嵌合解除力(EIA-364-13)、湿度(EIA-364-31)、耐久性(EIA-364-09)、熱サイクル(EIA-364-110)といった具体的な基準を評価し、配置環境に基づくコネクター性能の基準となります。
データ・センター機器の場合は、制御環境アプリケーションで使用される電気コネクターとソケットの性能を評価するEIA-364-1000環境試験方法を独自に適用します。本来、ビジネスオフィスアプリケーション用に設計されたEIA-364-1000ですが、データ・センター内のデバイスなど、比較的温暖で制御された環境における使用も対象としています。
EIA-364試験は推奨であり要件ではありませんが、業界標準になっているため、多くのメーカーでALTガイドラインとして用いられています。
液体環境におけるALTの課題
EIA-364などのALT規格は、従来の空気環境に関して信頼性の明確なガイドラインになっていますが、液浸冷却アプリケーションで使用するコンポーネントのALTに関しては、ほとんど定義がなされていません。それを難しくしているのは、市場にはすでに十数種類の独自の誘電液体が存在し、すべて性能が異なるという事実です。つまり、メーカーは空気だけでなく、十数種類の液体に対してALTを実施する必要があるのでしょうか。媒体ごとに、異なる製品を製造しなくてはならないのでしょうか。
オープンコンピュートプロジェクト(OCP)の液浸プロジェクトでは、こうした疑問やその他の疑問に答えることを目的として、業界の専門家による意見やインサイトを活用し、液浸冷却を扱うワーキンググループを設けています。空冷はデータ・センターでサーバーの温度を下げるために従来用いられてきた方法ですが、液浸冷却のほうがエネルギー効率とコスト効率が高く、設置スペースも少なくて済むことは実証済みです。OCPは、液浸プロジェクトを通じて、液浸ソリューションについても、液浸対応機器についても、統一された定義、仕様、互換性要件、ベストプラクティスの確立に取り組んでいます。
OCPのような組織のアドバイスにより、メーカーがあらゆる液冷および空冷環境で確実に動作する1つの製品を設計できるようになることが理想でしょう。それによって、システムアーキテクトや設計エンジニアはBOMを簡素化し、混乱やエラーのリスクを最小限に抑えることができます。また、エンジニアはこうした可能性に対して積極的です。実際、先日行ったモレックスの信頼性とハードウェア設計に関する調査によると、回答者756人の51%はすでに、現在の要件に加えて、将来的に業界で取り入れられるであろう信頼性に関する認証および規格を満たそうと努めています。
信頼性の高いデータ・センターへの道を切り開くモレックス
高速データ・センターアプリケーション業界のパイオニアであるモレックスは、ALT機能に多額の投資を行っており、OCPの液浸プロジェクトなどに積極的に貢献しています。信頼性の高いデータ・センター性能を媒体を問わずに確保するために尽力し、現在および今後のEIA-364とOCPガイドラインに適合することを目的とした相互接続ソリューションの幅広いポートフォリオを用意しています。
信頼性とハードウェア設計に関する調査の詳しいインサイトについては、こちらで結果をご覧ください。
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