産業とアプリケーション
生活のすべてでテクノロジーが飽和する時代において、住宅への電力供給も大きな変革の時を迎えています。住宅がシェルターとなるだけではなく、エネルギー利用の管理に積極的に関与する世界を思い浮かべてみてください。私たちは、家庭用エネルギー管理のコンスーマ化の時代を迎えており、これは私たちがエネルギーを利用する方法とホームバッテリーストレージシステム(BSS)の設計におけるパラダイムシフトの時代です。
今日のエネルギー管理市場の前線には、エネルギー消費に関する社会の意識の高まりがあります。推進要因はさまざまですが、費用節減が大きく、さらに環境上の配慮、規制の要求、電力網近代化イニシアチブ、そして従来の電力網への依拠を削減または排除したいという希望などがあります。同時にスマートホームデバイスの普及が進んでいます。サーモスタットから玄関のモニター付きチャイムまで、これらのデバイスは、消費者の自宅での対話、管理、モニター方法に新しいスタンダードを設定します。この傾向は電力供給にも及んでいます。
消極的なエネルギー消費の時代は終わりつつあります。代わりに、ホームバッテリーストレージシステム技術の進歩と、消費者主体のユーザーエクスペリエンスにより、住宅所有者がそのエネルギー使用について情報に基づく判断を行う時代が始まりつつあります。ホームエネルギーストレージシステムの導入と設計の両方を推進するトレンドについて見ていきましょう。この急成長市場は、2020年の27億8000万ドルから2027年には130億5000万ドルの規模に達すると予想されています。
住宅用エネルギーストレージマネジメントシステムの傾向
自宅が、エネルギーの生産と消費の相互接続するエコシステムへと変革を遂げるにつれ、主要トレンドは私たちがエネルギー効率と管理に対する姿勢を変革しつつあります。
住宅の再生可能エネルギーは急速に成長
再生可能エネルギーを住宅へ取り入れることは急成長トレンドで、コスト削減といった前述のさまざまな要因を反映しています。自宅所有者は、ソーラーパネルとエネルギーストレージシステムの採用を増加させており、再生可能電力を利用して管理しています。このシフトはこれらのテクノロジーの実際上および値段上の入手可能性に後押しされ、家庭がそのエネルギー源へのより大きな支配を獲得し、エネルギーコストはより長期的に予測可能になっています。しかし、再生可能エネルギーにも課題がないわけではありません。最も顕著なのは、たとえば夜間の太陽光パネルの運用など、エネルギー源が入手できない時、または減少した時のエネルギー生産です。
ホームバッテリーストレージシステムが消費者にエネルギー自活とコスト削減を提供
再生可能エネルギー生産に影響する環境要因は、家庭用BSSの導入の増加につながっています。住居用エネルギーストレージシステム(ESS)とも呼ばれる住宅用BSSは、通常はリチウムイオン電池を使用し、再生可能エネルギー源から生成された余分なエネルギーを貯蔵します。テスラパワーウォールなどのBSSは、発電機と同じように停電時のレジリエンスを提供し、電力使用のピーク時以外の再生可能エネルギー生産時間における、電力会社の電力の使用を埋め合わせることができます。熱関連リスクなど、BSSが故障なく稼働できるよう、バッテリー管理システム(BMS)は各バッテリーのステータスと健全性を監視し、性能を適宜調整します。
エネルギー自活の1つのメリットは、上昇するエネルギー料金の金銭的影響を最小化できることです。米国内では、家庭の平均的な電気代は2013年1月の$0.129kWhから2023年1月には$0.168kWhへと30%上昇しています。そして、この上昇率は加速しています。2022年1月から2023年1月までのわずか1年間で、コストは14%増加しました。これは、2013年1月から2022年1月までの9年間に見られた増加率と同一です。欧州の大半の地域ではコストがさらに大幅に上昇し、一部の国では100%前後の上昇率となって代替エネルギーへの需要増加につながっています。
財務上の節約以外で、利益への機会さえあります。BSSは、余った充電エネルギーを電力会社へ売却するという可能性さえ生み出し、分散エネルギー環境への大きな変遷をサポートする金銭的インセンティブとなっています。この大規模な効果は最近欧州連合で見られました。エネルギー価格の急上昇が太陽光エネルギーの大幅な採用につながったのです。現在、太陽光発電の過剰生産により、欧州のエネルギー料金はマイナスに転じ、エネルギー会社による住宅所有者への支払いにつながっています。これは比較的頻繁に発生するようになり、同様の状況は米国でも見られるようになりました。
この過剰生産は自宅所有者に金銭的メリットをもたらしますが、これは今後やってくる課題も反映しています。従来型の発電所は、晴れた日であっても操業を停止できず、生産の縮小だけでも問題になります。ここには、大きな課題とともに巨大な機会が存在します。もし、ホームバッテリーシステムが夏の間に十分なエネルギーを蓄電できれば、理論上、その電力を太陽光の弱い冬に使用し、電力網へ即時に与える影響を軽減することができます。現在のバッテリーストレージ技術はそこまで進んでいませんが、急速に改善されつつあります。
エネルギーを電力会社に送り返すことは、設計エンジニアの作業の複雑さの度合いを高めます。高い電力品質がBSS継続運用の基本ですが、電力会社の電力網へ送り返される電力は非常に具体的な要件を満たす必要があります。これは母線や使用されるさまざまなコネクターなどの内部コンポーネントの、性能、品質、信頼性の重要性をユニークな形で高めます。
スマート家庭用エネルギー管理システムは一層ユーザーフレンドリーになる
バッテリーストレージシステムは、エネルギーを蓄積し、解放するための手段ですが、エネルギー管理システム(EMS)が中央管理機構として機能し、いつ、どこで、どのようにエネルギーを使用するかを管理し、多くの場合、アプリでユーザーインターフェースを提供します。住宅用EMSの進化は、モノのインターネット(IoT)の収束により際立ちます。EMSへ直接構築されたスマート機能は、エネルギー消費からデバイスレベルまで、分単位のインサイトをユーザーに提供できます。リアルタイムデータへのアクセスは、エネルギー使用について情報に基づく判断を行う力を個人に与え、空調の実行時間を短縮するといった電力消費の最小化によるコスト削減を実現させます。この可視性は自宅所有者に、他の種類の情報に基づく判断を行うことも可能にします。家電を買い替えるか、あるいは予想よりも運用にコストのかかるその他のデバイスを交換するといった判断です。消費者意識の高まりは、家電、空調、その他の住居用システムのメーカーにとって、突然、効率がこれまで以上に重要になったことを意味します。
可視性におけるパラダイムシフトは、エネルギー管理を積極的なパーソナライズされたエクスペリエンスへと転換し、そこではテクノロジーによってエネルギー効率が高まり、金銭的な節約が進み、自立が強化されます。スマートフォン、自動車、その他の消費者用アプリケーションとほぼ同様に、市場シェアを獲得して維持する上でユーザーエクスペリエンスは非常に重要です。
自動車-自宅間の接続
電動自動車(EV)がさらに主流になるにつれ、自宅での充電は常態化します。そうなると、命題は「自宅でどうやって自動車に充電するか」から「車両から自宅にも給電できるか?」へと拡大します。これは、電気自動車のフォードF-150ライトニングが示すように、既に現実のものになっています。この車はV2H(vehicle-to-home)テクノロジーの先駆けです。双方向充電システムの進化のおかげで、ライトニングのバッテリーは、自宅のバッテリーのバックアップとして最長3日間使用でき、不測の電力障害に対する現実的なソリューションを提供します。GMは車両用アルティウムプラットフォームを導入して自社のV2H市場への参入を後押ししました。
V2Hテクノロジー以外でも、古いEVバッテリーを自宅のバッテリーストレージシステムで使用するという機会もあります。バッテリーの全体状態は経時劣化しますが、使用済バッテリーという定義は用途によって変化します。古いEVバッテリーは、自動車にはもはや効率的ではないかもしれませんが、他の場所では使用できます。ノルウェーに本社を置くエコストアは、使用済のEVバッテリーを自宅のソーラーエネルギーストレージソリューションで再利用します。EVバッテリーは、容量が70%未満に落ちると、EVでは機能しないとみなされます。この画期的アプローチは、EVバッテリーの寿命を延ばすだけではなく、エネルギーストレージシステムの設計の焦点を切り替える、前向きな考え方のモデルであると言えます。
電力を知り尽くしたモレックス
家庭用バッテリーストレージシステムと家庭用エネルギー管理システムの市場は、イノベーションの機が熟し、非常に大きな機会、そして課題をこの分野のメーカーにもたらしています。しかし、機能に関わらず、品質、性能、信頼性は必須です。
安全で信頼できる製品のスケーラブルなポートフォリオの開発・運用において80年以上の実績を持つモレックスは、家庭用エネルギー管理の動きの最前線に立っています。当社の高性能な母線、コネクター、ケーブルアセンブリーのソリューションは、当社の無類のエンジニアリング知識とグローバルな拠点および顧客とのコラボレーションへの注力に裏打ちされています。私たちは次世代ホームバッテリーストレージシステムを一緒に実現できることを楽しみにしています。詳細につきましては、当社のホームエネルギーストレージソリューションのページをご覧ください。