産業とアプリケーション
コネクテッドアプリケーションは、消費者向けガジェットから産業用デバイスに至るまでさまざまなものが存在しますが、ここ数年、その実現に向けたモノのインターネット(IoT)へのアプローチはますます複雑になっています。また、開発者は、未来のテクノロジーとの統合に向けた製品設計と、既存のアプリケーションに対するIoT機能の組み込みという2つの課題に直面しています。
IoTは玄関の呼び鈴やセキュリティシステムといったデバイスにスマートプロセッサーを組み込むことから始まりましたが、このテクノロジーはそれ以降進展を遂げ、さらに複雑なネットワーキングシステムやインテリジェンスシステムを組み込み、追加的なデータを収集して、それを無線周波(RF)系経由でワイヤレスで伝送するようになっています。例えば、ユーザーが音声で温度調整できるスマート冷蔵庫としてスタートした製品は今や拡張が進み、扉が開きっぱなしの時や浄水器フィルターの期限が切れた時にモバイルアラートを発報するようカスタマイズすることができます。
プロセッサーの機能性の強化に伴ってソフトウェア定義型機能の拡張に拍車が掛かり、大型家電製品や工業製品といった非伝統的な市場では特に、さらに高度なRFハードウェアによってネットワークアプリケーションやネットワークサービスのオプションの幅が広がっています。ソフトウェアが進展してその価値が高まる中、無線ネットワーキングの可用性と優れた性能への依存度が年々高まっています。ユーザーは優れたRF性能を要求し、デバイスが常時機能することを期待しています。要件は絶え間なく変化していますが、設計者は、現在のみならず今後も最善の性能を達成する上で必要なコンポーネントを用いてIoTデバイスを確実に開発できるようにする3つのベストプラクティスに従うことができます。
1. 専門知識を求めつつ計画に関与
増加する接続性の要件を設計プロセスに組み込むという認識を高めることは、RFコンポーネントを補足要素ではなくアプリケーションに不可欠な要素としてとらえるようにする最初のステップです。開発者は、適切なプランニングを行わなければ、洗練された筺体やディスプレイであっても、RF電子機器やアンテナ給電装置を組み込む理想的なスペースが不足した製品を開発してしまう可能性があります。
現在、多くのIoTプロジェクトでは、既存のデバイスを導入してそれに無線機能を追加しています。つまり、これらのプロジェクトは転換型であり、この領域に関する専門知識が求められます。製品チームはそのデバイスの設計や製造の経験を持っているかもしれませんが、RFの要素を設計に効果的に組み込む知識が不足している可能性があります。
設計チームに最初から関与しているRF専門家は、必要なコンポーネントを予測し、その周辺を設計することで課題を解消させることができます。筺体は金属かプラスチックか、アンテナの配置は筺体の外側か内側か、最適なプリント基板のサイズはどうかといった周到な設計インサイトによって、平均的なIoTデバイスと高性能なIoTデバイスの間で違いを生み出すことができます。
2. アプリケーション要件の見極め
RFの専門知識をIoT設計プロセスに組み込むことは重要ですが、設計者とエンジニアは、追加する無線コンポーネントを決定する前にスマートデバイスの要件とその想定される用途・軌道の目標も把握する必要があります。前述のスマート冷蔵庫は当初、単純なコンポーネントしか必要ありませんでしたが、ネットワーク対応の機能に対する依存度が高まるにつれ、信頼できる接続性がますます重要になってきました。デバイスの寿命と、そのデバイスに無線機能が搭載された段階の発展的な使われ方を予測することで、設計者はどのようなコンポーネントが最適であるかについてさらに優れた概念を得られます。
IoTデバイスに組み込まれるRFコンポーネントとアンテナコンポーネントは汎用的ではありません。スマートデバイスの理想的な性能は微妙に異なり、そのアプリケーションによって決まります。医療機器の場合、優れた性能は、半径2メートル以内で情報を確実に伝送できる能力を意味することがあります。その情報が半径100メートル以内で伝送される場合、プライバシーの課題が重大な懸念事項になる可能性があります。しかし、音声イヤホンの場合、その逆も正しく、長距離伝送は医療機器の性能に欠かせません。伝送距離を優先するアプリケーションもあれば、優れたカバレッジを要求するアプリケーションもあります。そのため、設計者は、デバイスのアプリケーションを考慮してからRF戦略を決定する必要があります。
3. 弾力性とバックアップRFを追求
堅牢で応答性に優れたRF性能のニーズにより、多入力多出力(MIMO)アンテナなどのテクノロジーが登場しました。基本的なレベルで言うと、MIMOアンテナは空間角度的に異なる冗長なアンテナであり、1台以上のこうした冗長なアンテナは、隣接するアンテナよりも信号を拾いやすく、あるいは送信しやすくなる可能性が高くなります。また、これらのアンテナは、RF波のマイクロ反射によるより優れた信号を収集することもできます。
このアンテナが接続されるRF電子機器は、このアンテナの使用時にMIMOをサポートする必要があります。また、セルラーアプリケーション、特に5Gの場合、MIMOアンテナの採用にあたって高速性と優れたRFが必要な高性能デバイスを設置するのはよくあることです。
加えて、Wi-FiやLTEといった冗長なプロトコルや周波数の利用に向けて最も信頼性の高いRFが要求されるデバイスにおいて、MIMOアンテナはますます一般的になってきています。LTE(4Gまたは5G)はWi-Fiのバックアップであり、Wi-Fiがダウンしてもデバイスを確実に機能させることができます。
RFをIoTに組み込む方法を慎重に検討する際、設計者は、RFの専門知識を活用して適切に計画し、アプリケーションに対する要求を考慮に入れ、将来のトレンドに適した複雑な設計を理解する必要があります。大量の帯域幅を使用する次世代プロジェクトまたは新製品プロジェクトの場合、5Gの機能と冗長性に焦点を当てる必要があります。とはいえ、ほとんどの家庭用IoTデバイスには現在のRF戦略で十分ですが、設計者はこうしたデバイスの採用拡大について状況を常に把握しておく必要があります。
モレックスの本領域の専門家であるマシュー・マクウィニー氏が、最近のMouser Industry Tech Days Podcastで見解を伝えています。このインタビューをお聴きになり、設計者はIoT領域における変革と課題をどう予測するべきなのかについてマットの詳しいインサイトを得てください。